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2021年1月17日 (日)

今日のマイルス

21miles-davis
人の感情は揺れやすくて、たいていの場合、気持ちはしょっちゅう上がったり下がったりしている。とくに朝の気分はデリケートで、デリケートなだけにその時間をどれだけ心地よく過ごすかは大事なことで、それには音楽を聴くのがいいといわれている。
でも、自分みたいに繊細な感覚をしていると、毎日決まった時間に決まった音楽を聴くのがいいとは全然いえなくて、できるだけ今日の、いまの気分に最もフィットする音楽を聴きたいと思うのだけれど、あいにくそれがなかなかみつからない日もある。
今朝がそれだった。

息子は昨日はけっきょく泊っていった。
我々がひさしぶりに会うといつも会った瞬間から話が止まらなくて、昨日もやっぱりそうで、あっという間に時間が過ぎて夜遅くなってしまったからだ。それで息子が後になっていうには、今回は来てもとくに話すこともなく、すぐに帰ることになるかもしれないと思っていたそうだ。なぜなら、わたしと娘がすでに『古く』なっていて、自分とはまったく話が合わなくなってしまったんじゃないかと思っていたとか。
息子が来るときはきまって好物をつくって歓待しているこちらとしては随分な言われ方だと思うけど、息子のいわんとすることはよくわかる。自分の周波数が上がってしまうと、もう低い周波数の人とは全然あわなくなってしまうから。
暮れに労働に疲れ果てながらも自分に必要な情報を追っていたとき、とつぜん知り合いから、いまTVを見ていたらお笑い芸人がどうたらとかいうつまらないLINEが入ってきて、「わたしにくだらないLINEをするのはやめてくれ。いますぐ消えろ」と思ったことがあったけど、まあ、それとおなじようなこと。
そんなわけで昨夜は自分のお風呂の順番が回ってきて寝たのがもう3時で、なぜかわからないけど布団に入った瞬間、寝る前に最も考えないほうがよいこと、最も現実的なネガティブな思考に思いが及んでしまって、ちょっとまいった。何をやってもなかなか無くならない自分の奥に潜む岩のごときネガティブ・ビリーフがあるのがわかって。
だからこそ今朝は起きるとすぐに自分を心地よくさせる音楽が必要だったわけだけれど、今朝は何をかけてもピンとこなかった。CDをトレイに置いてちょっとかけては止め、違うのに入れ替えては止め、そんなことを何度も繰り返した。
朝8時半に起きた窓の外は白っぽくて、異常に暖かかった昨日とは打って変わって一転、雪でも降りそうな冬景色で、部屋の中は暗くて寒かった。
「明日もゆっくりしてられないんだ、ひとと会う約束をしているし、それにそれまでにいちど家に帰って音楽の課題をやらなくちゃ。だから明日は9時には起きる」といっていた息子は10時半になっても起きてこず、「朝ごはん(といってももうほぼ昼)を食べよう」といって襖をあけるとようやく眠そうに起き上がってきた。けっきょく一度家に帰って音楽の課題をやる時間なんてものは全然なくなって、ここからまっすぐ今日会うことになっている友達との待ち合わせ場所に行くことになったってわけだ。

それで食事を終えた息子がバスルームに消えたとき、ふいに思い立ってかけたのがこのアルバムだった。
マイルス・デイヴィスの『The Man With The Horn』。
これは息子がまだ家にいたとき、よく彼の選曲リストから流れていた音楽で、あまりにいいので息子が家を出たあと探して買った。
そしてこれをかけた瞬間、ああ、今日はこれだったか、と思った。
今日の自分の気分は外の天気と同様、けして明るく軽快なものじゃなかった。
このアルバムもそういうはじまりじゃない。
でもそれがいまの気分とぴたっとハマって「おお!」と気分が上がったのだ。
するとバスルームから出て支度を終えた息子がカーテンの向こうで何かいった。よく聞こえなくて聞き返すと、「このマイク・スターンの音、最強だよね!」という。そしてカーテンをあけて飛びだすように出てきて「それにマイルスの音ってほんとにブルーだよね。今日みたいな暗い日によくあう。ビル・エヴァンスが『Blue in Green』をマイルスとやりたかった気持ちがよくわかる」と満面の笑顔でいった。「うん。けして明るいわけじゃないんだけど気持ちが落ちない」。わたしがいうと息子は「それはすごくソリッドな音だからだよ」といい、「しかもいろんなブルーがある。ま、『Kind of Blue』ってくらいだから。で、秋山さんの音もブルーだよね。ブルーで、すっごくブルージィ。このアルバムを聴いて秋山さんがやってる音楽、秋山さんが何をやりたかったかがわかったんだ」とわたしはいった。(これはあくまでわたし個人の考えで、当たってるかどうかわかんないけどね。)
「これ聴いてるといつも海底から神殿がガーっと浮かび上がってくるような映像が浮かぶんだ。ジャケットもそんな感じだしね」と息子はさらにいい、「まさに『ラー』って感じ。黄金の神殿。The Man With The Horn は荘厳で壮麗。で、気分がすごく上がる」とわたしはいった。それから、秋山さんはどうしてるかな。「そうきちには悪いけど、俺のカレンダーから2月を消してしまいたい」という秋山さんだから、きっと今時期はあんまり調子よくないんだろうね、と話した。日本が真冬の頃には冬が苦手な人たちと毎年みんなでブラジルに行く、なんてことができたらどんなにいいだろう。

Blue × Blue = Gold。かどうかはわからないけど少なくともわたしの気分は朝起きたときよりはだいぶましになり、外もだんだん陽射しがでてきて明るくなってきて、そのあと息子とは気分よく別れた。ちっちゃなことかもしれないけれど、ひとと会うときの気分も大事なら、別れるときの気分も大事だ。ひとは誰だっていつどうなるかわからないし、仮にどうかなった後、相手のこころにできるだけHAPPY な印象を残したいから。
建物の前で息子は手を振りながら右の道を行き、わたしと娘は左に曲がって公園に行って、また縄跳びをした。
今日はつづけて100回跳べた。
でも何回かやったらすぐに息が上がって、わたしよりも先に疲れてしまう娘と10分もたたないうちに家に入った。我々はへなちょこだけど微々たることでも毎日やりつづけていればきっと全然やらないよりはだんだんよくなる。
たぶん。

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