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2018年9月 9日 (日)

父の遺影

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今日は自分の撮った写真ファイルの中から父の遺影を選んで、妹に頼まれた掲示用の訃報の張り紙を作って夕方持って行った。まだやることがいっぱいあって泣く暇はないから、フォルダの中から写真をピックアップする作業に没頭したけれど、過去の写真を見ながらついこのあいだまでこんな笑顔を見せてくれていた人がもういないんだと思うと、ただ悲しいのともちがう、不思議な感覚に捉われた。ただ、いまよかったと思うのは、生きているあいだに何度か父に直接「ありがとう」と言えたこと。ほんとうにいまとなっては父には感謝の気持ちしかない。父には小さかった子供の頃から大人になるまでほんとうにやさしくしてもらったし、困った時に助けてもらった。それは何度ありがとうと言っても足りないくらい。
それに父は母より20年も長生きしたから、晩年はいろんなところに一緒に行くことができた。たいていの場合、あまり歩けなくなった父とどこに行くのも、連れて行くほうとしては神経を遣ってとても大変だったけれども、過ぎてしまえばそれもいい思い出。なかでも去年の春に、妹の提案でかねてより父の念願だった京都に行けたのはほんとうによかった。気さくで温かな人柄のご主人のいる京料理の店で、父があんなに食べたのはあれが最後のことだったろう。父がよく「冥土の土産に」といっていたのが、ほんとうになってしまったけれど・・・・・・

わたしとは今年の5月に浅草に行ったのが最後になった。
そのときのことをわたしは一生忘れないだろう。
父はそのとき「これが最後」と言った。
最後に浅草の弁天さまにお参りしたいんだ、と。
そのとき父のこころにあったものはなんだろう。
けれども、そう言った父は浅草に着くなり歩けなくなってしまい、一歩一歩、わたしに手を引かれて何時間もかかってようやく弁天さまの前まで行きながら、けっきょくはリタイアしなkればらないことになってしまったけれど、あきらめて前を通り過ぎるとき、父が鳥居の前で帽子をとって、敬礼のポーズをして軽く会釈をしたことは忘れられない。できることなら最後までちゃんとお参りさせてあげたかったといまになっても思う。あの日は夕方から急に雲行きが怪しくなってきて、あとちょっとのところであわや土砂降りのなか立ち往生するところだった。わたしにとっては恐怖の遠出になってしまったけれど、それでも父は後で妹に「今日は楽しかった」といったそうだ。認知症の父はなんでもすぐに忘れてしまうから。でも、それもいま思えば父のいいところだったかもしれない。そのおかげでわたしの言ったこともみんな忘れてしまったと思えば、わたしもずいぶん気が楽になるし、ありがたいことだと思う。
そしてありがたいといえば、父は何より笑顔のいい人だった。
わたしなんかとくらべても気取りのない、自然で嘘のない笑顔。
それは見ず知らずの誰にでも向けられていたらしい。
5月の夕方から深夜にかけて、わずか数時間ではあったけれど、父がはじめて行方不明になって心底慌てた夜、妹が父がよく行くスーパーのレジの男の人に写真を見せて尋ねたところ、「ああ、あの笑顔の素晴らしい人!」といわれたというから。
いつか自分もそんな笑顔ができるようになれるだろうか、と思う。

父が肝臓がんになって何度か入退院を繰り返し、アルツハイマーもあって脳だけではなく身体の機能が落ちてだんだん歩けないようになってからは、妹もわたしもいつ何が起きてもおかしくないとこころして、出かけたときにはできるだけ父の写真を撮るようにしていた。いつか必要になるであろう、遺影のために。
だから父の写真はいっぱいある。
でも意識して撮っていたとはいえ、いざ実際に選ぼうとすると、遺影にふさわしいものはそんなにはない。けっきょく父の遺影は、去年の5月に生活の木・薬香草園の白もっこうばらのアーチの下で撮った写真になった。背景の緑と白がきれいな写真で、父も母と同様、花の好きな人だったからいいんじゃないかと思った。やっぱり、とてもいい笑顔をしている。そして、この日に撮ったほかの写真を見ても父はとても澄んだきれいな表情をしていた。
妹に今日それらの写真を見せたら「泣ける・・・・・・」といった。
父はそれを見てどこかで笑っているだろうか。
だといいけど。
ここから先は、わたしはただただ父と母にありがとうと言いつづける。
もうそれくらいしかわたしにできることはないから。

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