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2018年1月 5日 (金)

冬の時計

18hot_milk_3

ミルクを温めるのはむずかしい
青いガスの火にかけて
ほんのすこしのあいだ新聞を読んだり
考えごとをしていたりすると
たちまち吹きこぼれてしまう

そのときのぼくの狼狽と舌打ちには
いつも
「時間を見たぞ」
「時間に見られてしまったな」
という感覚がまざっている

ミルクがふくれるときの音って
じつに気持ちが悪い
と思いながら急いでガスの栓をひねったときはもう遅い
時間は
ゆうゆうと吹きこぼれながら
バカという
ぼくも思わずかっとして
チクショウといい返す

今日の石鹸はいいにおいだった
なるほど
きのうのヒステリー
あしたの惨劇
みんな予定どおりというわけか
冬の時計が
もうじき夕方の六時を打つ

( 北村太郎 詩集『ピアノ線の夢』から『冬の時計』)

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朝、牛乳配達屋が玄関のポストに瓶に入った牛乳を届ける音が聞えるり、寝まき姿の母が出て行って、玄関前の板の間に立ったまま紙の栓をあけ、唇に白い液体を滲ませるように飲んでいた姿をいまでもなぜだかとてもリアルに、鮮明に憶えている。
それは暖かい季節のことじゃなくて、寒々しい冬の朝のこと。
母の姿を見上げるわたしは身震いしそうだった。
たぶん、わたしの4歳前の記憶。

わたし自身はあまり牛乳というものが好きじゃなくて、小学校の給食で毎日出される牛乳を飲むのはとても苦痛だった。とくに真夏の生ぬるい牛乳。低学年のころはふるい木造校舎だったから、木の床に誰かがこぼした牛乳の匂いを嗅ぐのもほんとに嫌だった。
そんなだから、大人になってからもとくに積極的に飲むことはなくて、最初の子供を産んだとき、家庭訪問に来た保健婦さんに、産後のカルシウム補給のために牛乳を毎日飲むように強くいわれたときは心底げんなりした。成人が1日に飲まなきゃならない牛乳の量は厚生労働省で決められてるって。そのときから日本の厚生労働省の決めたことなんておよそ信用できないと思っている。

それでも牛乳がすごく嫌いかというとそういうわけでもなくて、子供のころは苺にお砂糖と牛乳をかけたのを食べてたし、それどころかときにはごはんに牛乳をかけて食べたりしていた。いまとなってはそんなのもすごーく昭和な風景だと思うけど。
そんなわたしが唯一、牛乳を飲みたいと思うときがあって、それはあんぱんとカステラを食べるとき。
あんぱんと牛乳、カステラと牛乳。
なんて黄金の組み合わせなんだろう! と思う。
今日は雪でも降りそうな寒い日で、でもやっぱり仕事をしてたらお昼を食べそこねちゃって、体温がみるみる下がってますます寒くなってきて、キッチンに置いたかごには、このあいだデパートの地下のスーパーマーケットで買ってきた切り落としのカステラが一袋。
それで寒いなか『特濃』という牛乳を買ってきて、さすがに冷たいまま飲む気にはなれないからホットミルクにしてカステラと一緒に食べることにした。娘とふたりの、おやつみたいな遅いお昼。ミルクパンからもうもうと湯気のたつ牛乳をふたつのカップに注ぎ分けて、ホットミルクなんて二十年ぶりくらいに飲んだけど、なんだか目が覚めるくらいおいしくてびっくりした。
外は時折り鋭く鳥の声が響く以外はとても静かで、部屋の中は暗く、今日はたぶん、Jさんが煙になって大気に消える日で、灰色の空からはいまにも大粒の雨が降ってきそうで、ミルクを飲みながら子供のころからどうして、お通夜とかお葬式の日ってこういう寒くて暗い日が多いんだろう、と考えた。
ホットミルクがひときわおいしい、寒い寒い、さみしい日。

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