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2016年10月27日 (木)

終わりと始まり。秋の暖かな朝。

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今日は朝起きるなりベランダで蜘蛛騒動とコガネムシ騒動があって、仕事に行く息子を送り出してキッチンで洗いものをしてたら電話が鳴って、元気に出たら鳥取の母だった。
わたしの声を聞くなり「早苗ちゃん、若いわねえ! 娘みたいな声して!」と勢いのある元気な弾んだ声。「そういうお母さんこそ若いです。昔とぜんぜん変わってない!」というと、「みんなに化け物みたいだっていわれるのよ」と明るい声でいう。
そして、昨日はこころのこもった贈りものをありがとう、ひとつひとつの品物ぜんぶに早苗ちゃんのこころがこもってるのがわかって、あけた箱の前で泣いたわよ、という。逆の立場だったらきっとわたしも泣いたと思う。
今朝さっそくいただいた珈琲をドリップして飲んだ、といわれてホッとした。

数日前に84になったばかりだという母はここ十年風邪ひとつひかず、医者にもまったくかからず、胃薬も頭痛薬も風邪薬も飲んだことがないというのでびっくりした。
素晴らしい!
わたしよりずっといいくらいだ。
そんなだから84になったいまでも杖もつかずに歩けるし、よく老人が押して歩いているようなカートもいらないという。
そして、そんなことをいう以前に、とにかく声が若くてイキイキしているのだ。
ボケとは無縁の80代、という感じがした。

でも残念ながら、はじめて会ったとき『ネバー・エンディング・ストーリー』に出てくるファルコンそっくりだと思った、あの温和で知的でやさしそうな父はすでに亡くなっていた。もう5年も前のことだった。
父が仕事でひとりで東京に来たときだったか、2回めに3人で食事をしたとき、「息子が結婚するんじゃなかったら間違いなく自分が結婚するんだったよ」といって笑わせてくれたひと。あの言葉でずいぶんなごんだし、わたしはあのとき気持ちを決めたんじゃなかったかな。だからショックだった。

それまで、何をするにもお父さんにすがって生きてきたから、お父さんが亡くなった後はこれからどうやってひとりで生きていったらいいかわからなくなって途方に暮れてしまった、と母はいった。人間、どこからこんなに涙がでるものかと自分でも驚くくらい、半年くらいは泣いて暮らしたという。それはそうだろう。二十歳で結婚してほとんど喧嘩をすることもなく仲良く59年も連れ添った相手が、ある日とつぜん目の前から消えてしまったのだから。
でも亡くなったときはほんとうに静かな逝きかたで、どこも痛いところもなく、まったく苦しむこともなく、とてもきれいな死に方だった。亡くなる三ヶ月くらい前のこと、何を思ったのか父は「こればかりは年の順番だからね。しかたがないんだよ。だから僕がいなくなった後はあなたはもう自分の思うように、自分の好きなように生きなさい」といったのだそうだ。
そして亡くなった日はちょうどいちばん上のお姉さんの誕生日の日で、「今日はKの誕生日だね」といったのが最期の言葉だったという。

母は、いまでもさびしいのはさびしいけれど、娘にうちに来ないかともいわれるけれど、でもいまはここでひとりで暮らすのがいちばん自由で気が楽なのよ、といった。
娘には、一人になってさびしいとは思うけど、あんなやさしい人と結婚できてずっと一緒に暮らせてこれたんだから、さびしいときはお父さんと結婚して最も楽しかったころのことを思いだしなさい、といわれたらしい。それもよくわかるし5年経ったいまならそれもできるかもしれないけれど、でも一瞬にしてその絵を頭に思い浮かべてしまうわたしには、それもなんだかすごくさみしいな、と思った。わたしが長いこと苦しんだのはつらかった思い出より楽しかったきれいな思い出のほうだから。もしわたしが何かいえるとしたら、なんでもいいから、ほんとに料理でも絵手紙でも塗り絵でもなんでもいいから、何かひとつ自分が熱中してできることをみつけたほうがいい、というだろう。
そして誰でもいいから人と話すこと。
人と関わること。

ひとしきりいろいろ話してもうそろそろ電話も切れようというころ、母の口からいつもの言葉が出かかったので、わたしは「もうそういうのはやめにしましょう。ずいぶんと時間が経ったのだし」と制した。すると母は「これからはただの友達でいてください」といった。きっぱりと、清々しく。まるでわたしより年下の若い人みたいに。
それでわたしも「はいはい、そうしましょう。よかったらまた電話してください。雨がつづいてくさくさするときとか風が強くてなんだか心細い夜とか。わたしもまた電話します」といって、お互いに何度も「ありがとう」といいあって電話を切った。
なんだか長い時間の終わりと始まりみたいだった。

朝の時間に電話で40分も話していたせいですっかり朝食が遅くなって、朝ごはんは昨日深夜のスーパー・マーケットで買った、さつま芋と紫芋と栗とかぼちゃがごろごろ入った秋のグラノラ。
ハニー・ベアのはちみつをかけて。
「これ空っぽになったらわたしにくれない?」と娘がいう。
「もちろん。あなたがいなかったらこんなの買わないわよ」とわたしがこたえる。
あたたかな朝。

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