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2015年4月21日 (火)

今年の一等賞

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人間、寝起きがいちばん具合が悪い。

まだ頭がぼやっとしているのもそうだけれど、寝ていた姿勢から起きた姿勢に

なったばかりのときは身体がぎくしゃくしてバランスが悪い。

『ねむることによって毎日死を経験してるのに』と北村太郎は詩の中で書いて

いるけれど、眠りはほんとうに死に近いものなのかもしれない。今晩寝て明日

の朝いつもとおなじように目覚める保証はどこにもない。実際そのまま亡くな

ってしまう人もいる。

今朝は昨日痛めた腰のことがあるから注意深く起きた。

けれど一晩寝て腰は良くなっているどころか、立ち上がって立とうとすると腰

から背中に違和感が広がり、なかなかまっすぐに立てない。脚に力を入れる

と、もとから問題のあった右の股関節までが痛んで身動きならず、困ってしま

った。もっとも困難なのが腰を曲げで屈んだ姿勢で、やっとのことで顔を洗っ

て姿勢をもとにもどそうとすると、すんなりいかずに時間がかかる。椅子に腰

かけて立とうとすると腰が曲がったまま、なかなかまっすぐにならない。腰が

曲がったまま歩く私はまるでお婆さんみたいだ。折しも今日はリハビリの日で

こんなんで病院まで歩いて行けるんだろうかと不安になった。

それでも簡単な朝食をとって、今日は自転車には乗れそうもないからいつも

より早く家を出て歩いてゆくと、外科と整形の前は相変わらず座る椅子もない

くらいに患者でいっぱいだった。誰も彼もあきらかに身体のどこかが故障して

いた。いつもなら名前を呼ばれるときびきび診察室に入る私が神妙な面持ち

で腰に手を当ててしずしず入ると、通院3ヶ月にしてすっかり顔なじみになった

担当医がやってきて、いつになく元気のない私の主訴を聞いた。結果、腰痛

には胃腸薬とともに鎮痛薬が出され、股関節はすぐにレントゲンを撮ることに

なった。X線の画像にはなんら異常がなくホッとはしたけれど、じゃあなぜ股関

節が痛いのかって話だった。

予約時間より20分も遅れてリハビリルームに行くといつもの作業療法士さん

が出てきて、電気を当てた後リハビリを受けた。私が今日も外科と整形の前

は故障した人でいっぱいだった、というと、彼は「あそこは修理工場です」とい

った。「そうだね。まるでファクトリー」と私はいい、彼は「車の修理工場みたい

に駄目になった部品を取り替えて新品にできるなら楽で簡単だけど、人間は

そうはいきませんからね」といった。「ほんとに。50年も生きれば寿命だった

ころから一気に寿命が80年や90年に延びたからって、人間の中身まで進化

したわけじゃないからね。これからは若いうちからロコモに関する知識と意識

がないとやっていけない」と私はいった。

ラジオからはスティーヴィー・ワンダーの歌が流れてきて、それからはしばらく

音楽の話をした。若いのに彼は私の時代からちょっと上までの古い音楽をたく

さん知っていて、そうとう音楽が好きそうだった。リハビリが終わるころになって

彼は異動になったので自分は今日で最後です、といった。

彼は屈託なく自分のことをいろいろ話してくれる人だった。大きな身体をしてる

割にはとってもセンシティブで悩みの多そうな人だったけど、根は明るくていい

青年だった。せっかく気心知れたのに残念だ。彼にはとてもお世話になった。

家に帰って大きな鍋にお湯を沸かしてパスタをゆでようとすると鍋が重い、や

かんも重い、いつもやってることがいちいちこたえて信じられない。今日、私は

作業療法士さんに、ここに来てよかったことは自分のこともそうだけれど84の

父のことがわかったことだといったけれど、ほんとにそうだ。84なんて信じられ

ない。あの父にだって溌剌とした若いころがあったのだ。信じられない。

もう、昨日移動した重たいばらの鉢を自分でもとにもどすのはどうやっても無理

だったから、息子に頼んで指示通り運んでもらった。一見なんでもないように見

えたばらもよく見るとやっぱり昨日の暴風雨でだいぶやられていて、つぼみをた

くさんつけた枝が根元からぽっきり折れていたりした。外では選挙カーに乗った

ウグイス嬢が繰り返し何度もやってきては、空疎で無意味なきれいごとだけの

公約を大きな声でばらまいていて、うるさい。この辺りで選挙のとき以外もやって

きて比較的まともで説得力のあることをいっているのは共産党だけ。

ますます意気消沈しながら「あ!」と思ったのは、息子が3本の支柱を立てた鉢

を動かそうとしたときだ。

今年最初のばらが一輪咲いていた。

ばらの株元に近いところに一輪。

こんなふうに咲くところは、おなじばら科の桜にも似てる。

毎年いつも真っ先に咲くデュセス・ドゥ・ブラバン。

早咲きのオールドローズ。

まるで一生懸命走ってきた子どもが白いテープを切ったときのように、一等賞

をあげたい気分。

それから思わず頭のなかで『バラが咲いた』を歌った。

あの歌がとくに好きなわけじゃないけど、今日の気分にはぴったな歌だった。

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