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2015年3月 4日 (水)

冬と春のあいだ

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水曜午前の整形外科の診察室前はとても混んでいて、車椅子の人や杖を

ついて歩く患者でいっぱいだった。どこの病院に行ってもお年寄りが多いの

は同じだけれど、もちろん高齢者ばかりというわけじゃない。

リハビリルームに行くとやはりこちらも混んでいて、肩を電気で温めている

あいだ、いつものようにほかの患者さんがリハビリするのを見ていたら、高

校生くらいの若い女の子が両親に付き添われて車椅子でやってきた。まだ

片足を包帯で巻かれて固定されてはいるけれど、もうだいぶよくなったのだ

ろうか。車椅子から降りて作業療法士の指導で松葉杖をついて歩く練習を

はじめた。まず作業療法士が実際に松葉杖を使って歩くところをひととおり

見せてから、要所要所で大事なポイントを教える。ふつうにまっすぐ歩いて

行って、向きを変える方法。それから、段差のあるところの上り下り、さらに

進んで階段の上り下り ・・・・・・。どこに気をつけなくてはいけないか、どこを

間違えると危険かを、実際にやって見せながら的確に教える。

若い女の子はさすがに若くて運動神経がいいだけあってすぐに要領を飲み

こみ、あっという間に松葉杖をついて上手に歩けるようになった。

それを見ながら私も松葉杖で歩くポイントを絵と言葉で頭に入れた。

ここに来るといつも勉強になる。

以前から妹が父に高い杖を買ってあげたのにちっとも使わない、とこぼして

いたけれど、ここに来てお年寄りたちがリハビリするのを見て、ただ杖を買

ってあげただけでは駄目なんだとわかった。

先日ひと月ぶりで会った父が、たったひと月のあいだにさらに衰えて、町の

中を歩くのに両手を宙にさまよわせながら、つかまるものを探して歩いてい

るのに驚き、「何かにつかまらなきゃならないんなら、もう杖をついて歩いた

ほうがいいんじゃないの」といったら、「杖をつくと足にぶつかって返って歩

きにくいんだ」という言葉が返ってきた。それを自分の担当の作業療法士さ

んに話すと「杖というのは少し先につかなければならないんだけど、こわが

ってそれを手前についてしまうと、返って歩きにくいんです」という答えが返

ってきた。つまり私の父のような老人の場合、杖を買ってあげたら誰かが付

き添って歩く練習でもさせないかぎり、いきなり杖を持ってうまくは歩けない

ってことだ。なるほど。考えたらそうだよなあ、と思う。

といって、私がそれを父と一緒にやろうといっても、素直に応じないんだろう

なあ、といったら「親子なんてみんなそんなもんですよ。ここに来る人はリハ

ビリだと思って割り切ってるからなんでもやれるけど」といわれた。

先ほど『ここに来ると勉強になる』と書いたけれど、それはリハビリのやりか

ただけではなくて、ここでは誰もがお年寄りに対してとても優しく接している。

接客業でありがちな、うわべだけの丁寧さではなくて、まるで自分の家のお

じいちゃん、おばあちゃんが来たみたいに温かい接し方をしているのだ。

それでお年寄りのほうもすっかり彼らに心を開いて、リラックスしているのが

わかる。もちろん認知症が進んで、何をいっても表情ひとつ動かさない人形

のような老人もいるけれど、それでも作業療法士たちの明るい接し方は変わ

らないし、たとえ人形のように見える老人でも作業療法士が何かいえば衰え

た筋力でそれに応じようとする。病気や怪我、老化で身体が思うように動か

なくなってしまった人たちにとって、こういう場があるというのはどれだけ救い

になるだろう。最近、外の世界があまりに陰惨な暴力で満ち満ちているだけ

になおさらそう思う。傍から見たら馬鹿みたいかもしれないけれど、私はとき

どき、うるうるしながらリハビリルームの中にいる人たちを眺めている。

父にもこういう場所があったらいいのに。

今日、私はいつもの作業療法士さんに会うなり「週末は体調を壊してプール

にも行けなかったから自主トレも全然できませんでした」といったのだけれど

彼は彼でひどい声をしていて、今日は職場で朝の挨拶をするなり「帰れ」と

いわれた、といっていた。やはり週末から風邪をひいてまだ治らないのだそ

うだ。でも今日は外来の患者さんも多いから帰るわけにはいかない、という。

昨日、三月三日の雛祭りの朝はみぞれが降るほどの真冬日で、今日は最

高気温17.5度という4月の陽気。これじゃ身体もおかしくなる。

今日は関節に負担をかけずに行える腹筋と背筋を教わった。アイソメトリッ

ク・トレーニングというのだそうだ。肩の痛みがよくなったら筋トレをはじめま

しょう、といわれた。

いつものように約45分のリハビリを終えて外に出ると、さっきの女の子が外

でも練習していたのか、松葉杖をついて緑道から帰ってくるところが見えた。

緑道のいつかの寒緋桜はもう満開のピークを過ぎて散り始め、昨夜から今

朝にかけての激しい雨で木の下は緋色に染まっていた。

でもまだこれから咲くつぼみもあって、花はすべてつぼみのころがかわいい。

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道をはさんで斜め向かいでは河津桜がほころびかけていた。

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いまは冬と春のあいだ。

いずれ一気呵成に春がなだれこんでくる。

エグベルト・ジスモンチの『Frevo』みたいに。

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