« 梅雨疲れ | トップページ | やっと梅雨明け »

2014年7月21日 (月)

川崎大師の風鈴市

14kawasaki_daishi_03

朝、家を出たときにはこの季節にしては涼しいくらいで、父と出かけるにはちょうど

よかった。父の歩きかたではカンカン照りだとすぐにバテてしまうから。

今日は父と川崎大師の風鈴市に行く日だ。

実家の最寄駅のホームで待ち合わせ、めずらしくエレベーターを使わずに階段を

降りてきた父を見れば元気そうだ。驚いたのは、どこの駅に着いてもまずエレベー

ターを探さなきゃならないのに、今日は積極的に階段を使っていたこと。こんな日

もあるんだ、と思った。電車に乗ると父は席を譲られることが多い。それだけ見る

からに年寄りになったということだろうし、以前は譲られても断っていた父が、いま

は会釈してから素直に座る。電車は立ってるとけっこう揺れるから、無理すること

ないと私は思う。もちろん誰もが譲ってくれるというわけじゃなく、山手線では仏頂

面でiPhoneをいじってた女の子も、太い指でスマートフォンを操作していた大男も

しきりにカシャカシャとルービックキューブを回していた子供みたいなマザコン男も

完全に目の前の父を無視した。たまに父と一緒に出かけると、父はまるで社会を

映しだす鏡みたいで、私はいろいろなものを見、いろいろなことを思う。そしてなぜ

かどこに行っても私は人から話しかけられる。品川から京浜急行に乗り、京急川

崎から大師線に乗り換えたときには競馬新聞を持った見るからにとっぽい隙っ歯

のおじさんに親しげに声をかけられ、彼の横に2人並んで座った。かつては下町

の不良息子だったらしい彼は、話の内容からして父とそう変わらない年のようだっ

た。喋り方こそたいそう威勢がよかったけれど、彼が手を振りながら電車を降りた

ところを見たら、杖をついて歩いていた。大師線のなかは風鈴市に行く人たちで

いっぱいで、若い夫婦と小さな息子、3人そろって浴衣姿の家族などいて微笑ま

しかった。

そして、待ち合わせから1時間半ほどもかかって川崎大師駅に到着すると、目の

前の景色を見るなり父の顔が輝いた。なんだか懐かしいな、と父は嬉しそうにい

った。それだけで、わざわざ時間をかけて来た甲斐があるというものだった。

歩きながら「昔いちど車で来たことがあるだけだから」というから「昔っていつ?」

と訊いたら、「終戦後!」という答えが返ってきた。あまりに昔だ。

初めて行くせいもあって参道はけっこう長く、すっかり天気がよくなって暑くなって

きたこともあって早くも父は少し疲れてきたようだった。

でも、それもこの角を曲がったとたんに一変した。

14kawasaki_daishi_04

仲見世通り。

ここは父には馴染みの浅草、浅草寺の仲見世通りにそっくりだ。

道の先にはもう川崎大師の屋根がちょっぴり見えるから、ここまで来たらあと少し。

通りの両側では老舗の飴屋さんが飴を切る威勢のよい包丁の音がリズミカルに響

いている。そして、その音を聴くなりハッと記憶がよみがえった。

14kawasaki_daishi_05

父も私も忘れてしまっていたけど、ここは初めて来るところじゃない。

昔、私が二十歳だったとき、父の運転する車に乗って、大晦日から宵越しで初詣

に来たところだ。私が成人式に初めて着物を着るんじゃ格好がつかないだろうか

ら予行演習のため、ということで、母に着物を着せてもらって家族4人で来たのだ

った。そしてもともと車に強くない上に帯を締めていたものだから帰りに具合が悪

くなって、早く早くと父を急かして、クルマの中から家が見えるなり帯をゆるめて家

の中に駆け込んだのだった。すっかり忘却の彼方だったそんな大昔の記憶をいま

飴切りの音で思い出させられようとは。びっくりだった。

あのときは夜だったけど、たしかにこの景色と音には記憶がある。そしていまでも

大好きだけれど、あのときもきな粉飴を買って帰ったのだった。

仲見世通りを歩きながら、あんなのもあるこんなのもあると指さす私に父はまるで

子どもにいうみたいに「お参りしてからな」といっている。

そして護摩の煙がもうもうたる境内を突っ切って本堂前でお参りを終え、食べもの

の露店が並ぶ蒸しあっつい境内を抜けて、さて風鈴市を見ようと思えば父はげん

なりした顔で「その混雑した中に入るのか」という。こんなとこまでわざわざ来たの

は風鈴市を見るためなんだから混んでたっていくよ! とばかりに先を行くと渋々

着いてくる。たしかに人で混雑していて歩くことも風鈴をじっくり見ることもできず、

とにかく蒸し暑くてあっという間に全身汗びっしょり。屋根のあちこちからはミスト

が噴き出しているから、やたらにカメラも向けられない。来る前は頭の中でもっと

風情のある景色を思い浮かべていたけど、風流を味わうどころじゃ全然ない。

それでも日本全国から集められた風鈴はその土地それぞれの独自の味わいが

あり、見ていて楽しかった。岡山備前の風鈴も南部鉄の風鈴も渋くてよかったけ

れど、やっぱり暑い夏はガラスの風鈴が色も音も涼しげでよい。

14kawasaki_daishi_01

14kawasaki_daishi_02

津軽びいどろ、小樽ガラス、榛名ガラス、沖縄びーどろ、ガラスだけでもいろいろ

あるけど、東京っ子にはやっぱり昔ながらのシンプルな江戸風鈴がいちばんだ。

私は自分の家にはかけられないけど近々会う予定の人へのお土産にひとつ買い

父もさんざん迷った末に朝顔の絵のついた風鈴をひとつ買った。

14kawasaki_daishi_2

我々が見たのは風鈴市全体の半分程度で、風鈴が飾ってあるブースまだほかに

もあったけれど、暑さに疲れてきたのと、父がもういいというので早々に切り上げ

ることにした。こういうところも女親とはぜんぜん違う。せっかく時間をかけてわざ

わざここまで来たのだからと、母ならきっと少々暑くてもあちこち楽しんで見ただろ

うけど、父は来るだけで目的の8割方が終わっているようだ。私はもうちょっとちゃ

んと見たかったけれどあきらめた。なんのことはない、1時間も境内にいなかった

のじゃなかろうか。こうなると、あとのお楽しみはお土産を買うのとお昼ごはん。

駅を降りてここまでくるときに何軒も老舗の葛餅屋があって人がたくさん並んでい

て、ここは葛餅が有名なところなんだね、帰りに買っていこう、と話していたのだ

けれど、川崎大師では葛餅のことを縁起をかついで久寿餅と書くらしい。

14kawasaki_daishi_06

そんなわけで行きは久寿餅を買って帰る気満々でいたのだけれど、仲見世通り

を歩いていたらすごくおいしそうなわらび餅が売っているのを見つけて、わたし

久寿餅よりわらび餅のほうが好きなんだ! とばかりにそっちに変更。自分の分

と父の分とお土産に買うつもりが、父が買ってくれた。そして、これもまた行きに

見つけたお蕎麦屋に入ろうとしたところ、混んでるのでやめようと父がいい、あそ

こにしてみようか、と父がいったのはめずらしくこんなところだった。

14kawasaki_daishi_07

ここも老舗らしい、渋い佇まい。

でも寿司の暖簾にうなぎの幟にあなごと蛤なべの垂れ幕っていったい・・・

と思いつつも浴衣の後姿が色っぽい女性(粋な浴衣姿の男性と一緒だった)にひ

かれるように続いて入り、ここでうな丼を食べました。今年、初うなぎ。

うな重と違ってうな丼は家で食べるみたいにうなぎが小さかったけど、小食の父に

はちょうどよかった。メニューを見たら、うなぎにあなご、寿司に天ぷら、それに鍋

までなんでもありました。おいしかった。

そして食事が終わって時刻を見るとまだ1時過ぎなのです。

途中にある店を眺めつつ、駅までぷらぷらしながら帰りました。

14kawasaki_daishi_08

お土産に買ったのは大谷堂のわらび餅。

14kawasaki_daishi_09

きなこ、抹茶、竹炭と3種類入ってて、このわらび餅がとってもおいしかった!

ぽよぽよととろける食感。

息子が抹茶がとくにおいしいというので調べてみたら、京都嵐山の「峯嵐堂」が

出店元らしい。なるほど、それで抹茶が本物だったんですね。

14kawasaki_daishi_10

これはうまい! といいまくった息子、

最後に「ぼく、誕生日これでいい。わらび餅にローソク立てて」ですと。

相変わらず変なこという人だね。

でも、さっそく買ってくれた父に伝えると嬉しそうにしていた。

蒸し暑かった夏の日のささやかなひとコマ。

14kawasaki_daishi_11

|

« 梅雨疲れ | トップページ | やっと梅雨明け »

season colors」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 梅雨疲れ | トップページ | やっと梅雨明け »