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2013年11月30日 (土)

トピナンブールで

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11月も今日で終わり。

思えば10月後半から今月11月は、私にしてはめずらしく人と会う月だった。

思いがけなくいろんな友人と会う機会に恵まれたなかで、もっとも印象深かっ

たのは時期こそ違えど同じ職場で働いたという女性二人と会ったこと。二人は

ともにこのブログで私がボスの死について書いた記事を読んでコンタクトして

くれた人たちだった。ただ同じ職場で働いたことがある、ボスをよく知っている

というだけでなんの面識もない人と待ち合わせて会うのはなんだか不思議な

気分だったけれど、実際にお会いしてみると信じられないほどなんの違和感も

なく、すっと打ち解けることができた。それはあらかじめこのブログで私のことを

多少わかってくれていたせいかもしれないけれど、それ以上にボスという人が

特殊な、特別な人だったからだと思う。

私はライターの友人の紹介でボスに会っていちおう面接らしきものを経て働く

ことになったのだけれど、ボスはときどきどこで拾ってきたんだかわからない

女の子を連れてくる癖があったから、私が辞めた後に働いていた女の子に

ついてもよくわからないでいた。でも今回メールでやりとりしたら二人ともとて

もきちんとした人で、会ったらますますそう思った。ボスはどうやら女性を見る

目だけはあったらしい。少なくともつきあわなかった女性に関しては。

その死があまりに突然だったせいでボスについてはお互い話すことが多すぎ

て、会っているわずかな時間だけでは時間がぜんぜん足りなかった。渋谷で

会ったEさんと別れるとき、私が思わず「何か私に聞き忘れたことはないです

か?」と聞くと、彼女は鷹揚に笑って「そんな。これで最後みたいに」といった

から、ああ、まだこの先もあるんだ、とほっとした。そして、そんな風にいってく

れる人をとても好ましく思った。彼女からはあとから「あなたは素敵な人です。

素敵な人でよかった」とメールがきたけれど、それは私にしても同じ気持ちだ

った。

ほんとうはそのEさんと三人で会えたらよかったけれど、お二人の都合が合わ

なかったのでそれから少し後の真冬のように寒かった11月の初めにRさんに

会った。前からいちど行きたいと思っていた、国立のトピナンブールで。

行ってみるとそこはホームページでイメージしていた以上にアットホームなお

店で、ふつうの一軒家のお宅で営まれているカフェだった。玄関のドアを開け

て予約した名前をいうと、すでにRさんは奥のカウンター席で待っていて、すぐ

に顔をあわせることができた。

それから日当たりがちょっとよすぎるくらいの窓際の席で、ランチをしながら話

しはじめた。一見して彼女は育ちのいいお嬢さんがそのまま大人になったよう

な理知的できれいな女性だった。彼女を見るなり、どうしてボスはこういう人と

結婚できなかったんだろう、と思ってしまったくらいだった。

この日のヨシベジ定食。

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玄米ごはんと一汁五菜。

基本的には家で食べてる夕飯みたいだけど、もちろん家ではこんなに副菜はな

いし、外で食べる玄米って、いつもどうしてこんなにぷくぷくしておいしいんだろう

と思う。やっぱり圧力釜で炊くからかな。

オーストラリア在住で日本に一時帰国している彼女には和食がいいんじゃない

かと思ってのチョイスだったけど、Rさんは何を食べてもおいしいといってくれた。

そしてお互い何をどう話したんだったか。

ボスのところで働くことになった経緯や働いてるあいだのことや辞めてからいま

に至るまでの話や結婚や出産や現在の仕事についてなど ・・・・・・

そして私がボスの弟さんから聞いたボスの死に際してのことや遺されたいくつ

かの段ボール箱のことなどについて話しはじめたら、彼女はうっと詰まって泣

き出してしまった。両の目からはみるみる涙があふれ、もうちょっとで声を出し

て号泣してしまいそうなところをなんとか持ちこたえた。

それを見ながら私は彼女ってなんて優しい、愛情深い人なんだろうと思った。

ボスとはもう何年も会っていないというのに。

最期はひとりぽっちで、誰にも看取られることなくうっすら片目を開けたまま亡く

なっていたというボスだけれど、いまごろ天国で「見たか早苗、ボスにはこんな

風に泣いてくれる女がいたんだぞ」と笑いながら威張ってるボスが見える気が

した。そして、いまはもうここにいない人のことを思って切ないのは、亡くなった

ときのことより、元気で笑ってる顔が頭に浮かぶからだと思った。

外は北風が冷たくて寒かったけれど、縁側近くの窓際の席はぽかぽかと暖かく

庭には大きな柿の木があって赤く実が熟していた。まるで誰かのお宅にあがっ

て故人を偲んでいるようで、その相手がさっき会ったばかりの人だというのがや

っぱりちょっと不思議だった。

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陽がさんさんと差しこんで明るかった店内も、デザートのケーキを食べ珈琲を飲

み終わるころには日が傾いて暗くなってきた。

けっきょくトピナンブールにはかなりの時間、長居してしまったけれど、それでも

やっぱり時間はいくらあっても足りなかった。

それぞれにとっての十数年だもの。とうぜんだ。

彼女は12月の頭にはまたオーストラリアに帰国してしまうからとうぶんはもう会

えないけれど、それでもいまは昔と違ってメールやスカイプでリアルタイムに交

信できるから、詩人の魂を核としてつながっていられたらいつかまたお会いする

機会に恵まれるかもしれない。それにはやっぱりあれを完成させないと。

そう思いながら賑やかな夕方の国立の駅前で別れた。


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