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2013年4月19日 (金)

銀座のギャラリーで

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昨日ねむるとき、もうどう考えたところでボスはいなくなってしまったのだから明日には

ヘラヘラしてやろうと思ったけれど、やっぱりそうはいかなかった。なかなか眠れずに

朝もなかなか起きれず、朝食のとき、2日家をあけていなかった息子にボスのことをい

ろいろ話していたら、さっさと朝食を終えた息子がキッチンにお皿を片づけに行った。

感極まってキッチンに泣きに行ったのだった。

今日も私は家にいると胸が詰まって息ができなくなりそうで、今日はどうやっても仕事

にならないと思っていたら、もう午後も2時をまわるころになって娘が「宮城さんがいま

銀座のギャラリーで個展をやっていて明日までなんだ」といいだした。そんな、自分が

気に入っている絵描きさんの個展なら行かないとだめじゃない! 明日、行こう、とい

ってから、明日が娘の最後の学校だったことを思い出した。じゃ、いまから行こうとい

ったら娘は「へ?」という顔をしていたけれど、それからすぐに支度して家を出た。ドア

の外に出ると外は真冬の寒さで、部屋に戻って1枚多く着たくらいだった。相変わらず

風が吹き荒れているせいで体感気温が下がっているのだ。銀座1丁目に着いたのは

もうあたりが暗くなるころだった。あらかじめ調べておいた地図を頼りにギャラリーの

あるビルに入る。

ギャラリー銀座フォレスト。

一歩入るとそこは別世界だった。まるで昔にタイムスリップしたようなワンダーランド。

いまはなき同潤会アパートをもっとモダンに高級にしたような。入ったすぐ右手に手動

でドアが開閉するレトロなエレベーターがあって、まるで古い映画のなかに迷いこんで

しまったよう。そのエレベーターが使えるものなのかどうかわからなかったので私たち

は歩いて4階まで行った。娘も私も目をまるくして、久しぶりにわくわくしながら。

ビルの中には迷路のように小さい部屋がたくさんあって、そのどれもがショップ(主に

骨董品屋)かギャラリー。

目指すギャラリー銀座フォレストの表札のある部屋の前まで行くと、ドアを開け放した

部屋の中から男の人が娘を見て「あ、どうも。来てくれたんだ」といった。それが宮城

さんだった。

窓際にアンティークのテーブルが置かれただけのまっしろい部屋のなかには宮城さん

のホームページで見たようなパリの匂いのする寒色系のスタイリッシュなイラストレー

ションがちょうどよいバランスで飾ってあって、建物の雰囲気とも部屋の雰囲気ともぴ

ったりマッチした洒落た空気を醸しだしていた。

私たちが中に入るとちょうどみんな出て行ってしまって我々だけになったせいで、自然

と宮城さんと会話が始まった。宮城さんは40代の方だろうか、娘がいっていたとおり、

ちっともえらぶったところのないとても人あたりのソフトな気さくな方だった。絵のタイト

ルにあったミコノス、ギリシャの話から始まって村上春樹、グラン・ブルー、ジャズ、サ

ックス、シネマ、そして水泳の話まで。たくさんの共通キーワードがあったなか、とくに

宮城さんがTIスイミングがインターネットで提供しているスイムビデオを見て4泳法を自

力でマスターした、という話にはまいった。こんなところでこんなに熱心に水泳の話を

する人に出会えるなんて。

そして私はさっきまで元気のなかった自分が生き生きと闊達に話す声を、まるで他人

の声のように不思議な気持ちで聞いた。

話が弾んだせいで絵をさっと見たら帰るはずだったのがすっかり遅くなってしまったけ

れど、また階段で下を降りる途中、Ecru+HM(エクリュ・プラス・エイチエム) の看

板を見つけて「やっぱり!」と声をあげた。このビルに入った瞬間、ここってもしかして

・・・ と思ったけれど、やっぱりこのビルはいつかコトリさんが「絶対に行って!」といっ

て教えてくれた、建物まるごとパリのアンティークみたいな奥野ビルだったのでした。

ふだんでもぼけぼけしているのがボスの一件ですっかりボケが増幅されている私は

うっかり相棒(カメラ)を連れて行くのを忘れて写真が撮れなかったのが残念だけれど

ここはまたゆっくり時間のある休日にでも行って探検してみたいと思う。

ギャラリーを出たらすっかりお腹が空いてしまって、近くにあったドトール・コーヒーに

入った。2階の窓際のカウンターに娘と並んで夜の街を眺めながら、「家を出るまでは

どうしようと思うくらい息が詰まって苦しかったけど、お陰さまでいい気分転換になった

よ」といったら、娘が「そりゃ、よかった」といった。

下の子というのはなかなかちゃっかりしたもので自分はお財布も持ってこない癖に、

帰ろうとしたら「グッズが売ってる!」とかいってグッズを買わされたのでした。よくミュ

ージアムショップなんかで売っている絵の入ったファイル。素敵だったので私も自分用

に1枚買いましたけど。

ちなみに、この宮城毅さんの個展のタイトル“Café au lait, s’il vous plâit?”はかつて

長沢節さんがご健在だったころのセツではコーヒーブレイクのとき、先生にこういわな

ければならなかったんですって。そういえば私もドイツ語のレッスンの休憩のとき先生

から Möchten Sie etwas Tee oder Kaffee? と訊かれてドイツ語で答えてましたっけ。

もはやどちらも古い古いお話。

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