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2012年10月11日 (木)

ベン・シャーンの画集

Ben_shahn

木曜日の猫は思う。というか、小さいころから不思議に思っていた。

人間はどうして毎日ふつうに昨日と同じような今日を生きられるのだろう?

まるでなんでもないといった平気な顔をして。

木曜の猫にはとても無理そうである。

人間の毎日は単調だ。だいいち人間にはやることが多すぎる。そのうえ、つまらぬこと

を考えすぎる。

事情があって人間のふりをして暮らしている木曜の猫だが、たまに猫にでもならないと

やってられない。あの正月以外年じゅう無休の働きもののトムネコだって、客がいない

ときには頬ヒゲをぴんとのばして、長いシッポを床に垂らして、もうすっかり猫の姿での

んびりくつろいで珈琲を飲んでいるに違いない。目に浮かぶようだ。

おととい、木曜の猫のところにベン・シャーンの画集が届いた。

これはトムネコゴでみつけて大いに気に入った画集だ。

1962年発行の古い本だから、古本屋を探し回らねばならないかと思っていたけれど

思いのほか早く、きれいなのがみつかってよかった。

Ben_shahn_03

Ben_shahn_02

ベン・シャーンのプロフィルについてはインターネットをちょっと検索すればいっぱい出

てくるからあえて書かない。木曜の猫はNHKの日曜美術館でベン・シャーンが紹介さ

れているのを見て好きになった。サッコとヴァンゼッティとか、番組中でも印象的な絵

はいくつもあったけれど、とくにこころを捉えたのが『解放』という絵。

第二次世界大戦中の、ナチスからのパリ解放をテーマにした絵で、瓦礫のなかに残

った回転遊具で遊ぶ女の子3人が描かれた絵なのだけれど、いまにも空に飛んでい

きそうなスピード感でからだを宙に浮かせて回る子どもたちからは、たしかに解放の

気分は感じられるが、子どもの表情は廃墟と瓦礫の風景と同様、青ざめて不穏な空

気を醸しだしている。絵に張りつめた緊張感は、戦争がまだ終わってないことを暗示

しているようだ。回転遊具は木曜の猫にとっても馴染みのあるもので、子どものころ

夢中でやっていた時期がある。あまりに激しく、あまりに高くからだを舞い上がらせて

回っているので、大人が驚いて飛んで来たほどだ。木曜の猫自身、激しく回りながら

「いま手を放したら死なないまでも大怪我するだろうな」と思いながらもやめられなか

った。子どものころの遊びって、いつもそんな危険と恐怖の隣り合わせにあった気が

する。でも、どんなに危ないことをしていても自分はだいじょうぶ、というような感覚が

どこかにあって、それこそ無意識のうちに自分を宇宙の信頼(cosmic love)のなかに

ゆだねていたのかもしれない。もっともそれも戦争を知らない子どもゆえなのかもしれ

ないけれど。

Ben_shahn_06

貧困、差別、社会の不正義、戦争や核の脅威など、社会派といわれるベン・シャーン

が描いた絵はけして明るいものではないけれど、かといって啓蒙的ではなく、カラフル

で現代的なデザイン性を感じる絵で、絵画というよりグラフィック・アートに近いような

感じがする。とてもポエティックでもある。それをもっとも強く感じ、木曜の猫が惹かれ

たのはベン・シャーン最晩年の仕事となる『マルテの手記』の版画集だ。とても素晴ら

しかった。最晩年、死ぬ直前にたどりついた境地があれだというのも感慨深かった。

あの絵を今年、葉山の神奈川県立近代美術館で見ることができなかったのが悔やま

れる。いつか、静謐でとっても広い空間であの絵に出合うことができますように。

下は画集の冒頭に載っていたベン・シャーンの写真。

Ben_shahn_04_2

今日、この本が入った荷物が届いたときに「ベン・シャーンの画集が届いたよ!」とい

ったら、嬉しそうに飛んできたリサ猫が、本を見るなり「あ、その本、見たことある!」

といった。「どこで? 中身も見たの?」と聞くと「いや、何かでその本が紹介されてる

のを見たんだと思う。う~ん、なんだったかな」といって自分の部屋に戻ると、しばらく

して『イラストレーション』2010年1月号を持ってきて、「ほら、ここ!」と見せてくれた。

Illustration_2

指さされたところを見ると、『安西水丸が影響を受けた作家』としてベン・シャーンが紹

介されていて、その文章の最後に読者へ向けて「ベン・シャーンを知らずしてイラストレ

ーターを目指すのは間違いです。イラストレーターの神髄がこの人の絵でしょう」と書

かれていた。そして、1962年の12月に古書店で手にとって気に入って購入してから

1番好きな画集で、いまでも大切にしている画集としてこの『世界名画全集 続巻16

ベン・シャーン』(平凡社)が写真付きで載っていたから、水丸さんのことが昔から好き

な木曜の猫は(やっぱり私の目はたしかなんだ)とすっかり気を良くしてしまった。

そしてさらに安西水丸が「1番好きな作品かもしれません」といって紹介していたのが

『ハンドボール』という作品で、これはレコードのジャケットにもなっていて、いつかトム

ネコが見せてくれたものだ。

この絵は無機質で淋しいけれど妙に惹かれるものがある。

Ben_shahn_05_2 

というわけで、しばらくはこの画集に埋没しようと思う猫なのだった。

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