« お念珠 | トップページ | がん再発 »

2012年9月 3日 (月)

父の再検査

120903nishi_shinjyuku

父の再検査の日。

いつも検査の日に付き添うのは妹、担当医に結果を聞きに行くのは私、と分担してい

たのだけれど、今回は検査の時間が午後3時と中途半端な時間なのと、会社で経理

をやっている妹は月始めの月曜は休みにくい、ということで2日続けて私が行くことに

なった。いつものように父とは駅の改札で待ち合わせ、夏の午後の最も暑い時間に

外に出ると、9月に入ってからの断続的なゲリラ豪雨のせいで陽射しは少しやわらい

だけれど、相変わらず大気の状況は不安定なようだ。あと少しで病院、というところで

またポツポツきはじめた。前のめりになっていまにも転びそうな歩きかたをしている父

に、またダーッと降ってくると困るから少し急いで、といってみるけれど、「そんなことい

われても速く歩けない」といって父は口をへの字にしている。なんとか本降りになる前

に病院のなかに入った。それが予約時間30分前。

まいどロビーの機械に診察券を入れるようにいって、自分の控えと2枚出てくる受付

票をとり、2階の消化器内科の受付箱に入れて、電光掲示板下の椅子で待つ。それ

からが長い。電光掲示板に受付番号が表示されるまでにややあり、それから中の診

察室(今日は検査室)近くの長椅子の前で、こんどはドアの前の電光掲示板に受付

番号が表示されるまで延々待つことになる。そんなの毎度のことなので、私は本でも

読んで待っていようと泰然とかまえているが、ここから父のそわそわ・やきもき・いら

いらが始まるのだ。もう予約した時間になるのに、前の人が出てきたのに、もう何分

過ぎたのに、もう予約時間は終わってしまったのに、と目で態度で声にだして訴え続

ける。今日なんかまだ自分の番号が表示されてもいないのに検査室のほうまでいこ

うとして、いいかげん落ち着いておとなしくここで待っててくれ! と止めた。こういうの

がほんとに疲れる。こういう父の横にいるだけで私はストレスだ。

けっきょく、今日の検査予約はどうやら2人の別の医師がダブルブッキングしたものと

思われる。父とまったく同じ予約時間の受付票を持った父より10くらい若そうな男性

が検査室から出てきて、ちょっとの間をおいて父の番号が表示された。

その先に出てきた、いかにも生粋の東京っ子らしい匂いがする、育ちのいいボンボ

ンといった鷹揚な感じの男性は、「ああ、のどが渇いた」といって自分のカートからマ

イボトルを出すと、お茶だか水だかをごくごくと飲んだ。「朝食後、検査前は水も飲ん

じゃいけないっていうんだもの」と奥さんにいっている。やきもきしながら待っている父

の左横でぐうぐう寝てた人は奥さんだった。検査の後だというのににこにこ鷹揚に話

すその人を、同じくにこにこしながら見ていた私が「検査は時間がかかりましたか?」

と聞くと、男性は「そうでもない。30分くらい」と人懐こい感じでいった。「おとうさんも肝

臓?」と聞くので、「そうです。肝臓がんなんですよ」というと、「おんなじだ」と夫婦同時

にいった。なんでも2年前に肝臓がんの切除手術をして、それから3ヶ月毎の検診に

通っていたのが、前回、3ヶ月前のCTスキャンでひっかかって今日エコーということに

なったらしい。「また肝臓に直径1センチ大のがんが見つかったって」と旦那さんがい

うと、「このひと、心臓も悪いのよ」と奥さんがいう。すると旦那さんのほうは「いいんだ

悪いところはさっさと取ってすっきりしちゃうんだ」と前を見たままこともなげにいった。

2人は検査が終わってもなかなか帰らないと思っていたら、いまやったエコーの結果

を待って、医師とのやりとりで今日中にオペと入院の予約をしてしまうのらしかった。

私がふたたび本の上に目を落とすと2人はお互いのスケジュールについて話し合い

始めた。お昼抜きでお腹がすいたという旦那さんは、こんどはカートからお煎餅をとり

だして食べている。なんと用意のいいことだろう。しばらくお煎餅を噛むパリパリという

いい音が廊下に響き、醤油の香りが漂ってきたと思ったら、ほどなく2人の入院スケ

ジュールの話は他愛もないお煎餅談議に変わってしまった。こういうことにはもう慣れ

っこなのか、彼らにはこれから2度目の肝臓がんの手術を受ける悲壮感はこれぱか

しもなかった。

検査は30分ということだったけれど、彼らが診察室に呼ばれて入って行き、医師との

話を終えて出てきてもまだ父の検査は終わらなかった。「きっと先生が丁寧にみてくれ

てるんだろう」、男性は私に人懐こくいった。診察室の前で、「それではお大事に」とお

辞儀をして別れた。

それからしばらくして父が看護婦さんに例によって自分の肝臓がんがどのような経緯

でみつかったかを話す声が聞こえて、やっと父が出てきた。「思ったより時間がかか

ったみたいだけど疲れた?」と聞くと「そんなに疲れてない」という。でも超音波をやる

のは初めてだったのか、「なんだか胸からお腹からヌルヌルするものを塗られて冷た

いしくすぐったいし ・・・・・・」と笑えることをいった。時計を見るともう5時近かった。

「ま、結果は明日にならないとわからないから今日考えてもしょうがなし。とにかく出よ

う。なんでもないといいね!」と父をうながして、そそくさと会計をすませて外に出た。

父は検査のために今日は昼抜きだったけれど、私もバタバタしていてお昼を食べそこ

ねたまま出たからお腹がぺこぺこだった。もう遠くまで歩く元気もないので隣りのビル

のレストランフロアに行くと、もうランチタイムを終えて夜まで準備中の店が多いなか、

まだやっていた中国料理の店に入った。ラーメン好きの父は坦々麺を食べ、私はエビ

チリ定食を食べた。店のなかは私たちしか客がいなくて、私たちが食事をしている間

中も男性店員と女性店員がふつうの声で話しながらせわしなく夜の宴会らしいテーブ

ルセッティングをしていた。おまけに店のオーナーとおぼしき中国女性が割れ鐘のよう

な声で喋りまくり、私たちのテーブルまで来て「辛いか?」「おいしいか?」と聞いた。

「そんなに辛くない、おいしいです」と答えたけれど、実際は砂糖も塩も効きすぎて味

が濃すぎた。中国人がオーナーで、これってないだろうと思った。先日、検査結果を

聞いた後に美術館のレストランで食べたときもそうだったけれど、今回も散々いいと

いったのに父が払った。

駅までの道をまたゆっくりと歩きながら、病院で会ったご夫婦のことを話した。

私たちが病院にいるあいだにかなり雨が降ったらしく、歩道にはところどころに大きな

水たまりができていた。雨のせいで暑さは朝よりもやわらいで、ビルの間から見える

空には秋の気配があった。私は変な時間に食事をしたらもう眠くて眠くてコーヒーショ

ップにでも入って珈琲を飲みたくてしかたなかったけれど、父と一緒だとそれも面倒だ

し、夕飯の支度はあるし、それに自分のいれた珈琲が1番おいしいことを考えると馬

鹿らしいのであきらめて歩いた。

明日の面談は11時半。

どうせ予約時間が過ぎても待たされるんだから明日は1時間前に待ち合わせるのは

やめよう、といったら、父はいつになくあっさり同意した。

父も今日で少しは懲りたらしい。

相変わらず父の心情はわからないけれど、あとは神さまに祈るしかない。

120903nishi_shinjyuku_01

|

« お念珠 | トップページ | がん再発 »

父の肝臓がん」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« お念珠 | トップページ | がん再発 »