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2012年6月14日 (木)

祈りたくて

12hakka

感情が考え理性が感じるところに従えと

みずからの心にいう しかしぼくは

祈りたくて


タバコを何本もふかしつづけ

四畳半の部屋の窓もドアもすべて閉じ

もうもうたる煙の午前三時を

呆然とすごしている

ぼくはきのうも一日じゅう

恐ろしい自分の声を聞いていたが


めったなことをいってはならぬ

それが祈り

ことばを正しく使うことそれが祈りと


思いはしたが木枯らしの

音の絶え間ほどの安心が

かつてあっただろうかそれは


得られるものだろうかと

懐疑的になるのだった玉の緒よと口に出していうと

時間はどんどんたっていってしかし


髪の毛のさきまでニコチンくさくなって

ぼくはやはりいま狭い部屋にいて

きのうが三十年むかしみたいに思われて


口をあんぐりとあいて

ガスストーヴのゴム管を見つめている

少年時代の


夕焼けを幽霊みたいにこわがった経験を

総毛だって思い出している

あのときぼくは


たしかに祈った今夜とちがって

かん高い声で

たくさん言葉を並べたてて


おう神さま許してください

もう二度と悪いことはいたしません、と

夕焼けはあまりにも長くつづきすぎます、と ・・・・・・


邪悪な目というものが

たしかにあって

だから馬や猫の目がかわいくて


ぼくは鏡に顔をうつして

じぶんが動物になればいいなと思った

幽霊の夕焼けがこわかったのは


そこに紅いたくさんの邪悪な目が

ひしめいていたからだった

死ぬまで付きまとわれるような気がしたからだったが


じぶんが幽霊になってしまっていないという保証が

どこにある

もう一本タバコに火をつけて


黙っている(ぼくはじぶんがおそろしいが)

めったなことをいってはならぬ

でもことばを正しく使うなんて


できるだろうか不意に

すがすがしいハッカの匂いがしたので

なおさら祈りたくて


(北村太郎 詩集『あかつき闇』より、『祈りたくて』)

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いまでこそ健康に問題のある友達に煙草をやめるようにいっている私だけれど、若い

ころは私も多少は喫っていた。きっかけは親友にすすめられた1本の煙草から。

彼女が喫っていたのはサムタイムのメンソール。

メンソールといってもタールの重さはショートホープと同じくらいだと彼女はいっていた

けど、あのころは若かったせいかそんなこと気にもしなかった。彼女はときどきその

メンソール煙草のフィルターにさらにハッカの結晶を仕込んで喫う。私も喫ったことあ

るけど、まさしくパーラメントのCMの『この味、別世界!』ってな感じになる。寝不足で

眠いときなんか一瞬で眠気もふっ飛ぶ。

幸い、私は嗜癖にまでにはいたらなかったからやめるもやめないもなくいつの間にか

喫わなくなってしまったけれど、それでもずいぶん長いあいだ、ときどき無性に煙草が

喫いたくなるときがあった。それが夜中だったりすると夜中に家を抜け出して買いに行

くほどだった。それというのもいま思えば、私は煙草そのものよりハッカの香りが好き

だったのだと思う。

ハッカの匂いにはほかにもいくつか思い出があって、ひとつには子どものころ夏祭りの

夜店で売っていたハッカパイプの匂い。私はあれが大好きで、見るたび欲しかったけ

れど滅多に買ってもらえなかった。私の母はキャラクターが先についた安っぽいプラス

チックのパイプなんてくだらないと思っていたし、「ハッカの味のするお砂糖なんて少し

しか入ってないから、すぐになくなっちゃうのよ。それでもいいの?」といった。それでも

買ってもらえたときは嬉しくてすぐに浴衣の首からさげて歩いた。中身のお砂糖がなく

なってしまったあともときどき思い出したように咥えて吸ってみると、微かにハッカの匂

いがした。懐かしい夏の思い出。

それから住んでいた部屋の北側の窓の下に生えていた草。

あるとき草むしりを手伝わされて雑草をむしっていたら、いきなり爽快な香りがあたり

に放たれて、何かと思ったら北海道産の和種薄荷だった。「薄荷は地下茎だから増

えるのよ」と母はいった。そのとおり、薄荷はむしってもむしってもまたすぐに生えてき

た。薄荷とスズランは地下茎だから増える、というのは子どものころに覚えたこと。

そしてアロマセラピーを始めたころに買っていたのはローズマリーと和種薄荷。

『生活の木』の精油が好きで、原宿に行ったときにはよく店を覗いた。

和種薄荷の匂いはペパーミントともスペアミントとも違う、甘さのない、もっと清涼感の

あるすがすがしい香り。いまでも大好きな香り。

写真の精油は最近手に入れたもので、梅雨に入ってからは毎朝これを焚いている。

これだけだと香りが薄いから、日によってローズマリー、ベルガモット、レモンユーカリ

ティートゥリーなどと組み合わせて。ペパーミントなんかと較べると和種薄荷はレアオイ

ルの部類に入るらしい。なので拭き掃除のときはもっぱら手に入りやすいパペーミント

を絞った雑巾に一滴垂らして使っている。それだけで鬱陶しい梅雨の室内が一気に清

浄化されたようで気持ちがいい。

そしてハッカの匂いといってまっ先に私が思い出すのはこの詩。

この詩の感じはすごくよくわかる。

人にはただ、祈るよりほかない夜がある。

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