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2010年10月 1日 (金)

10月はふたつある

Yumiko_oshima_3

突然

光は西のすそに消え

右も左もまえもうしろも

行き先をしめす表示も

なにもかも

暗うつたる闇につつまれてしまった


アリアードネ!! と

わたしは叫ぶ


テセウスに救いの糸をくれたように

わたしにも その糸をおくれ

わたしを迷宮から出しておくれ


ーーーー すると天から

糸ならで

力強そうな男性の手がさしのべられた

ーーーー 私につかまりなさい

向こうが扉です


(大島弓子『10月はふたつある』冒頭から引用。)

***************************************************************

毎年、10月と聞いて私の頭に浮かぶのはこれだ。

大島弓子の少女漫画、『10月はふたつある』。

ワンルーム、アスピリン。という言葉とともに。

たまたま今日、このブログを開いて興味を持ってこのマンガを読もうという人のため

にストーリーは書かないけれど、この物語の中で主人公、女子高生の長子は言う。

「わたしはよく思うんです。さか立ちしてみる上下逆の風景。鏡にうつった鏡の中の風

景。なんてそれらはいきいきとあかるく目にうつるんでしょう。そんなものは虚像だとわ

かってはいるけど。でもそのあかるさだけで、あっちの世界のほうがもっとはるかに赤

裸らに生きられる世界ではないかと思ってしまう」

すると端正な美貌の体育教師(もちろん男。私はイケメンなんて言葉は大っ嫌いです)

は言うのだ。

「きみの決心さえつけば、わたしはいつでもつれて行ってやろう。

 光り輝く、もう一方の十月にだ」

と・・・。

なんちゅう完璧な口説き文句でしょうね。

これで頭でっかちの、いつも空想でぼーんやりしている文学少女のこころは一発で鷲

づかみです。

まあ、読んだこともないのに、少女漫画なんてくだらねーと思っている御仁はさっさと

退散するように。


去年だったかな、親友のMちゃんがレンタルビデオ屋に行って、借りるものがなかった

から『グーグーだって猫である』を借りたらけっこう面白かった、って言ってたのは。

それでMちゃんが言うには、大島弓子は若い頃から天才少女と謳われて一世を風靡

した漫画家なのに、彼女自身の人生にはちっともいいことがないのよ、だそうだ。

ふん。そんなこと言ったらこっちだってちっともいいことないわよ。

が、私の返した言葉である。

ちっとも、と言ったら言い過ぎかもしれないけれど、けっこう困る。

だってもっとも多感な少女時代に大島弓子のマンガで育ってしまった女の子は信じて

しまったのだ。大島弓子のマンガの中に出てくるような男の人は実際にもきっといる

はずだ、と。

それで、きわめて個人的な意見を言わせてもらえれば、「あら、そういう男は実際にい

るわよ。だって私つきあってるもん!」というのを小説でやったのが吉本ばなななんじ

ゃないかと思う。それを彼女が現実生活でもやっているかどうかは私は知らないけど。

そんな風だから、この歳になっていささか嫌と言うほど学習した後でも、やっぱりどこ

かにそんなお方がいるんじゃないかと思えてしかたがない。

世の中の人に呆れられることを承知で白状してしまえば、今年の初夏だったか、娘と

神楽坂界隈を散歩して飯田橋駅への坂道を上っているとき、ふと自分の横を自転車

押しながら歩いている男性が大島弓子描くところのプロフェッサーそっくりに見えて、

思わず早足で前に回ってその男性の顔を見てしまったのは私です。

その日はかなり暑かったのだけれど、その人は仕立ての良い黒の麻のスーツに白い

シャツを着て、柔らかそうな癖毛の長髪に髭をたくわえた横顔も麗しかったけど、前か

ら見たお顔も素敵でした。思わず、私の大島弓子愛蔵文庫を読破している娘の前で

「ほんとにいるのね~・・・heart 」とつぶやいてしまいました。

つまり、見た目だけのことで言えば「いる」ってことです。

中身はどうかは別として。


そして、ふたたび『10月はふたつある』に話を戻せば、誰だって一度くらいは、この現

実と同時に存在しているパラレルワールドと、そこで全く違う人生を送っているもう1人

の自分のことを想像したことがあるのではないかと思う。(全くないって人はロマンが

無さ過ぎね。)

そして、そんな想像が極に達する季節は新緑の輝く光でいっぱいの5月か、秋のどこ

かシュールな光でいっぱいの10月じゃないかと思うのです。

そういえば今日、家族3人で食事に行って、みんなで電車を降りて長~いエスカレー

ターで上に上がって改札に向かったはずなのに、私と娘が改札を出てからしばらくた

ってもいっこうに息子が出てこないので心配していたら、やっと赤い顔でハアハア言い

ながら出てきた息子。いわく、エスカレーターを降りてゆく2人の後を追って自分も降り

たはずなのに、全然違うホームに出てしまった。僕が見てた2人は幻なのか?!

だそうです。まったくボケですけど、そう10月はふたつある。

そんな幻想に揺られる今宵です。

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コメント

こんばんは(^^)

ご無沙汰しております。


久しぶりにお邪魔したら、なかなかおもしろいネタなので、つい最後まで読んでしまいまいました!
乙女チックな気持ちって、大人になっても、持ち続けているものなんですね~

投稿: qharada | 2010年10月 2日 (土) 20:38

qharadaさま、
haradaさんに乙女チックと言われちゃうと、う~ん・・・ですけれどcoldsweats01
女子高生の頃からたいして変わってないですよ。
年はとったけど相変わらず文学少女チックだし、世界は不思議でいっぱいだし。
自分の頭だけで退屈しません。
もうこれってかなり特技なんじゃないかと・・・最近は思うけれど。

そういうharadaさんこそ昔と激しく変わったところってあります?
大人になったぜー と思うところとか。
よかったら教えてくださ~いsmile

投稿: soukichi | 2010年10月 3日 (日) 18:46

そうきちさん、こんばんは!


実は、先のコメントに書こうと思ってやめたんですけど、実際、自分を考えてもほとんど変わってないように思いますね。
一つ変わったのは、腹がたっても、すぐに怒らなくなったことくらいでしょうか。

投稿: qharada | 2010年10月 3日 (日) 19:21

haradaさん、
あっ、それ同じですう~
だーいぶ気が長くなりましたね(^-^)
少しは大人になったということでしょうか?
それとも体力がなくなっただけとか?!

投稿: soukichi | 2010年10月 5日 (火) 23:23

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