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2010年3月20日 (土)

こぶし

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ここ数日の寒さが嘘のように、今日もいきなり初夏の陽気。

春の気紛れな天気ときたらまるで猫の目のように変わりやすくて、秋の空の比なんて

ものじゃない。

プールの後、パン屋で遅いお昼を買って子供たちに出してから、自分は相棒を連れて

外に出た。移ろいやすい春を撮るために。

先日の紅梅に続いて街路樹のこぶしが咲いていたのだ。

ブルーの空をバックに楚々としたその花は、美しい女(ひと)みたい。

あったかそうな羽毛のコートを脱いだばかりの、白いワンピースを着た。

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こぶしの花を撮ってから、そうだ、あの家のモクレンはどうなったかなとその家の前ま

で行けば、もう時期遅く、美しさを過ぎたところだった。それでも満開の大輪の花を大

量につけたモクレンの木は凄まじくて、しばらく立って見ていたら、いつのまにか自転

車でやってきたご婦人が自転車から降りてそばに立っていた。

「見事ですよね」と言うので、「ええ、でももう美しい盛りは過ぎてしまいましたね」と言

うと、「そうですね。でも私くらいの歳になると、花が満開になって盛りを過ぎて散って

ゆくのを見るのも好きになるもんですよ」と言い、「つぼみもきれい、満開もきれい、

散ってゆくのもきれい」と歌うように言った。

そして、「このモクレンはもう50年以上も前からここにある木なんですよ」と言った。

モクレンの木の前の家を指差して「私はあの家の住人です。ここで生まれ育って、26

で結婚して、長男が生まれてあの家を立て替えて、もう50年以上になります。息子は

今年52歳。ここ(モクレンの家)の息子さんは53歳 ・・・ だったかしら」

それから私に「あなたはお近くの方?」と聞くので、「ええ、すぐそこの住宅に住んでい

ます」と答えると、彼女は自分の家をどこか遠い目で眺めながら「50年なんて、あっと

いう間ですよ。ほんとに、あっという間。あなたも若いうちになんでもやりたいことをなさ

ったらいいわ」と言った。

家に帰って、「年配のご婦人に、若いうちになんでもやりたいことをなさったらいいわ、

と言われたのだけど、もうすでにあまり若くないんだけどなあ・・・」と言ったら、息子と

娘が意地悪な声を出して笑った。


春はどこかぼんやりしてしまう季節だ。

波乱でも、安寧でも、喧騒でも、孤独でも、幸福でも、憂鬱でも、時間は同じように過

ぎ去ってゆく。

そういえば、こぶしは吉行淳之介が一番好きだった花だ。

前に宮城まり子の『淳之介さんのこと』を読んで感動して泣いた後に、たまたま新宿の

紀伊国屋書店で吉行淳之介の別の愛人が書いた本を見つけて、思わず一気に最後

まで立ち読みしてしまって、吐き気を催したことを思い出した。

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