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2009年8月15日 (土)

古桑庵にて

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おばあちゃんの家は赤羽駅から歩いて15、6分のところにあって、子どもの足にはず

いぶん遠かった。真夏の炎天下ならなおさらだ。大きな商店街をふたつと、大きな通り

(そのうちひとつには路面電車が走っていた)をふたつ越えて、さらに先。おまけに母

にはきまって足をとめる場所があって、毎度寄り道しながら行くのだ。まず駅前の賑や

かな商店街では、時計と宝飾店の大きなガラス張りのショー・ウィンドーの前で立ち止

まる。ショーケースにところ狭しと並べられたジュエリーの中で、母がいつも眺めてい

たのはダイヤかサファイアの指輪。いつもよりよそいきのワンピースを着た母の横で

どれがいい? と聞かれて、私が指差すのはいつもルビー。真っ赤なのじゃなくて、少

しピンクがかったの。けっきょく、一度も店の中に入ったことはなかった。

それから路面電車の走る通りを渡る手前の角にあった小鳥屋さん。母も私も小鳥が

大好きで、そこではいつも長居した。そこを渡るとあたりは急に下町っぽい雰囲気の

商店街になり、そこにあった大きなお豆腐工場で、たいてい葛餅か、夏ならところてん

をお土産に買って行く。そして、あともうすぐ、というところで最後に子供好きの優しい

おばあちゃんがやっている駄菓子屋さんに寄って、暇つぶしの遊び道具や駄菓子、

アイスなんかを買ってもらって、やっとたどり着くのだった。

おばあちゃんの家のまわりは一軒家が密集していたけれど、玄関までは生垣に囲ま

れた細い道があって、敷石を踏んで少し行くと、左手にガラス戸の玄関がある。母が

そのガラス戸をガラガラと開けて「ごめんください」と言うと、いつも奥からゆっくりとお

ばあちゃんが出てきて「いらっしゃい。よくきたねぇ」と象のような目を細める。めずら

しく玄関に鍵がかかっているときはそのまま庭にまわって、縁側の前の大きな靴脱ぎ

石に乗ってガラス戸を引くと、たいていは開いた。母は「お留守ですか? お留守です

ね。あがりますよ」なんて言いながら、時々は部屋にあがって待っていたりした。

私が小さかった頃、おばあちゃんの家にはまだクーラーなんてなかったと思うけれど

外の暑さにくらべて部屋はひんやり涼しかったように思う。カップのアイスに、ガラスの

器に入ったクリームあんみつやところてん。夏休みにおばあちゃんの家に泊りに行く

のは何よりの楽しみだった。近所の熊野神社の夏祭り。毎年呼ばれてかならず行っ

た。母の5人いる弟(つまり私にとっては叔父)たちも次々にやってきて、賑やかな夕

べ。スイカ好きの私のために、おばあちゃんはいつも2つも3つもスイカを買って待っ

ていて、おばあちゃんの家で私はいったいどれだけスイカを食べたことだろう。

私は初孫で、子どもの頃あんなにかわいがってもらったのに、晩年、私はなんでもっと

行ってあげなかったんだろう。

夏は異形たちの季節だから、夏にはきまって今はいないおばあちゃんのことを思い出

す。いまや祖母も母もいなくなってしまった。

Kosouan

自由が丘の駅に着いて改札の向うを見渡すと、人がいっぱいでどの人が彼女かわか

らなかった。避暑地の女優のような、下がったつば広の帽子に綿麻の大人っぽいチュ

ニック、膝下までの細いパンツルックのすらっとした女性が壁にもたれて分厚い本を読

んでいて、この人かなと思って近づいたら、やっぱりそれがcalligraphyさんだった。

「そんな分厚い本、なに読んでるの?」と聞いたら「1Q84。読み始めたの」と言う。

今日も夏日ですごく暑いのに、つば広の帽子の下で色白の彼女の顔はとても涼し

で、前に会ったときよりずっと健康そうだ。

この時期、私は1年で最も泳ぎたい季節ではあるのだけれど、あいにく8月は2週連

続でスイミングクラブがお休みなのだ。そんな折り、TIME&STYLEのライブのお知らせ

がきたから、梅干しもきれいに漬かったことだしCさんを誘ったら、すぐにOKの返事

がきた。しかもそれと同時に『渋カフェ』で見つけて行こうと思っていたカフ誘われ

ではないか。なんというシンクロ。やっぱり類は友をよぶ、ですね(^-^)

さて、まるでおばあちゃんの家に来たみたいな古桑庵。

この日は土曜日よりもさらに夏日で、庭の緑が映えていました。

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まるい形がかわいくて趣のある敷石。

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玄関では招き猫が迎えてくれました。

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お盆休みとあってか店内はとても混んでいて、玄関も靴でいっぱい。

奥へどうぞと言われて座敷の奥に座ると、これまたかわいいコースターに載ってお水

が運ばれてきました。

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縁側近くの席にはうららかな夏の午後の陽射しがさしこみ、こんなところはまるで普通

に誰かのお宅の居間のようじゃないですか?

こんな景色を見ることもなくなってしまった今だから、若い人たちがこぞってやってくる

のでしょうね。

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抹茶白玉ぜんざいなどいただいて、すっかりくつろいでしまった私たち。

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今日会った目的のひとつはお互いに作った梅干しを交換することでした。

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左が私が作ったの、右がCさん作です。

お互い初心者向けに失敗がないという塩の濃度で作ったら、いささかしょっぱすぎた

じ。我が家では息子に「これは1日食べたら2日は食べなくていい梅干しだね」と

言わてしまいました。くそー

梅干し同好会の2人としては、来年は減塩でいきましょうということにあいなりました。

外は暑いのに縁側で待つ人もだいぶん増えてきたのでおいとまして外に出ると、立派

松が青空バックに映えて。

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ここは混んでいてもお店の人にせかされることなくゆったりさせてくれて、お店の人の

じも良かったし、久々に定番カフェになりそうです。日本人に生まれてきてよかった、

しみじみ思えるカフェ。

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夕方からはガラッと趣を変えて、TIME&STYLEでジョナサン・カッツとアンディ・ウルフ

のピアノとサックスに心地よく酔いしれました。

Time_style 

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コメント

うわ~~、素敵素敵!
こんな家と庭、憧れますねえ。まるで裏山があるかのような木立の緑もすごい。
小中学生の頃生け花を習っていた先生のお宅がこんな感じでした。全体にこぢんまりとして坪庭があって、夏もひんやりしていてね。
自由が丘にこんなところが? と思ったら、古桑庵が茶房・ギャラリーとしてオープンしたのは10年前なんですね。知らないはずです。

投稿: 美也子 | 2009年8月18日 (火) 08:24

古桑庵 素敵なカフェ。MOOK見なければ分かりませんね。

ここって、子供の頃の私の縄張り。隣地にある熊野神社のお祭りには何度も行って、縁日の思い出いっぱいあります。楽しい場所でした。
この場所は地図の案内より別の道でいっていました。
こういう場所が自由が丘の稼ぎ場所なのかと思うと、とっても不思議。でもこのような建物殆ど残っていないから、こんど行って氷小豆食べてきます。
そうきちさんのブログ見なければ、多分絶対知らずに終わっていました。
ありがとう。

投稿: ayabunbun | 2009年8月18日 (火) 15:03

良いところですね。
母親を もっと大切にしようと思いました。
素敵なお話ありがとうございました。

投稿: jose | 2009年8月18日 (火) 22:34

美也子さま、
素敵よねえ(^-^)
物書きとしてはなおさら、こんな家と庭に憧れるんじゃないかしら?
で、着物なんか着て、たすきがけして家事やるのよ(笑)
子供のとき憧れたなぁ。
私は自分がいま住むなら和洋折衷でもっと北欧モダンみたいな明るい家がいいけど、実家がこんなだったらいいのになぁ、と思います。

美也子さんももとは東京でお仕事されていた方?
自由が丘も20年前とはずいぶん変わりましたよ。
でも相変わらず休日は人でいっぱい。

投稿: soukichi | 2009年8月20日 (木) 00:35

ayaさま、
ありがとう、だなんて。
多少でもお役に立ったのならよかったです(^-^)
そういえば自由が丘はaya さんが生まれ育ったところでしたね。
前に自由が丘生まれと知って、すごいなあ、きっとよっぽどいいお家の方なのね、と思ったことを思い出しました。(たしか個展のときです。)
いつもブログの記事はアップしてしまってからもちょこちょこ手直しするんですが、書き終わってから熊野神社のこと書くの忘れたと思っていたから、ayaさんのコメント見てびっくりしました。
ここへ行く途中も、熊野神社っていろんなところにあるんだねー、なんて言いながら歩いたもんですから。
私も北区志茂町の熊野神社のお祭りにどれだけ行ったことか(笑)

きっと子供のときのayaさんはやんちゃだったでしょうねー

投稿: soukichi | 2009年8月20日 (木) 00:47

joseさま、
はい。大事になさってください(^-^)
親孝行、したいときには親はなし、って実にほんとですから。
・・・といって、ひとり残ってる父にもたいしたことできてるわけじゃないんですけどね。
こないだも父とトンチンカンな会話して電話切った後、「ジイサンやばいな、だいぶボケてきたかも」なんて言っちゃったしね。

投稿: soukichi | 2009年8月20日 (木) 00:52

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