« ルイさんの白バラ | トップページ | 彼女のピアノ »

2008年12月 8日 (月)

熱をもらった。

Kugutsusou

まるでコクピットのように密閉された、鉄と石でできたくぐつ草の重い重い扉を開くと、

彼女は火の気のない暖炉のそばの席に座っていた。

Sちゃんにリクエストしていたオリジナル・ラヴの『ムーンストーン』をもらったのは、夏

の花火大会の夜のこと。田島貴男が離婚直後に作ったらしいそのアルバムを聴いた

感想は、「相当きてるよなぁ」だった。つまり彼もまた手負いの身になったってことで、

これは経験した者にしかわからないことだろうな。特にこのアルバムの『守護天使』は

その頃の自分の気持ちにもリンクした。以来、私と息子はこのアルバムがとても気に

入ってよく聴いているのだけれど、特にサックスが良くて、「いいサックスだな」「直さん

系だね」なんて会話をして、この松本健一というサックスプレイヤーのバイオグラフィー

を調べたら、驚いたことにホット・ミュージックで教えていることがわかって、おまけに

最近になって松本さんは直さんの弟子だよ、なんてことも聞いて、また好きなものが繋

がった気がしていた。フリーっぽい音がポップスの中に違和感なく昇華しているのは、

田島のセンスのなせる技か。ハート・ブレイカーの切ないアルバム。

離婚後、私が経済的不安よりも怖れたのは精神的に落っこちることで、必要以上に

心の琴線を揺さぶられたり感情的にブレたりしないために、その手のことを誘発しそ

うな映画やドラマ、小説なんかは日常から一切オミットしていたのだけれど、Sちゃん

の場合は音楽だった。離婚後、音楽がまったく聴けなくなった。Sちゃんにとっては生

活における唯一の楽しみで、あれほど好きだった音楽なのに。

先日そのSちゃんから少々悲痛なメールをもらったときには、どうしたものかと考えた。

私としては薄暗くてあったかくてインティメートな大人の隠れ家みたいなところに滑り込

んで、彼女の話を聴くことくらいがすぐに思い浮かんだけれど、それだけでいいの?

・・・ 結局、松本健一のサックスが好きならきっと好きだろうと思っていくつかの音源と

ともに竹内直さんのCDを送ってライヴに誘ったところ、「行きます!」と返事がきた。

くぐつで会ったときに「聴いた?」と訊くと、「うん。聴いたよ。やさしい音だね」とSちゃ

んは言った。やさしい音か。それはいいな。

そして昨夜も、「サムタイムなんていったい何年ぶりだろう?」と、このあいだも聞いた

ばかりの台詞を聞きながら、サムタイムのドアを押した。

081207naosan

081204naosan_01_3

いつもここでは同じような写真をアップしてるけれど、昨日の直さんも凄かった。

「1曲めからこんなに演っちゃってだいじょぶなんですか??」というくらい吹きまくって

あんなに踊るように全身で吹く直さんを見たのは私は去年の横浜JAZZフェス以来の

ような気がする。なんという力の入れよう。それで私は、昨日はそのテンションが解け

てメルティングな音に変わった瞬間、3曲めで ・・・・・・ 落ちました。

お酒がまわるように一気に酔っ払ってしまった。

ファースト・セットが直さんがアフリカに行ったときの印象を綴った賑やかで楽しい曲

『I MET WAGAN』で終わると、Sちゃんが「いやあー、楽しい!」と言った。最近はサッ

カーにすっかりハマってる彼女、「こんな気持ちは初めてサッカー観戦したとき以来

だあ!」って。そして「ドラムはツボだった」「ジャズって色っぽい音楽だねぇ」とも・・・

おお~、よかった、よかった! やっぱり類は友を呼ぶ、だね。

私が初めて直さんバンドを聴いたときだって、江藤さんのドラムに釘付けになっちゃっ

たもんな。それから『39』における清水絵理子さんの右手も凄かった。すごい速さ!

峰さんのレギュラー・メンバーになって、ますます腕に磨きをかけている絵理子さん。

2セットが終わってカウンター席が空いたら直さんの後ろに中学生くらいのかわいらし

い女の子が座って直さんが優しく話しかけていたから、私はてっきりまた直さんのお嬢

さんかと思ってしまったのだけれど、それは絵理子さんの生徒さんだったそうです。

081207erikosan

下はフルートで『武田の子守唄』を演奏している直さん。

直さんはほんとにこういう日本の旋律の歌いまわしが最高で、このときの俵山さんの

ベースも際立ってよかった。

081207naosan_01

昨日は直さんのボルテージの高さもさることながら、私もかなりテンションが上がって

しまって、ほとんど何をやったのかぶっ飛んでしまったのだけれど、珍しいところでは

『チャイコフスキーの5番』、季節柄か山下達郎の『クリスマス・イヴ』など。チャイコフ

スキーはよかった。それでサムタイムのサイトには昨日は2ステージと書いてあった

から、週末は終電が早いからかと思っていたのに、なんと3ステージまでやりました。

会ってからいろいろ話したことは話したけれど、肝心なことは何も聞いてない気がして

休憩時間に「そういえば何か話したいことあるんじゃなかったっけ」と訊いたらSちゃん

「ありすぎて、どこから話したらいいかわからないや」と。それは次に持ち越した。

3セットの始まりは私の好きなステラ(直さんのフレージングを真似てよく口笛で吹きま

す)、『ロータス・ブラッサム』を聴きながら静かにコートを着て、それが終わったところで

終電の時間があるので後ろ髪引かれつつ退散。昨夜も熱をもらった。

けっきょく、私はあそこに熱をもらいに行ってるんだと思う。

そして、それはSちゃんにも伝わったようだ。

サムタイムを出ると外はすっかり冷え込んで息が白かったけれど、すっかり温まった

身体にはそれさえ心地よく、私たちは元気に握手してそれぞれの方向に向かった。

昨夜もとてもしあわせな気持ちで。

|

« ルイさんの白バラ | トップページ | 彼女のピアノ »

no music,no life!」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ルイさんの白バラ | トップページ | 彼女のピアノ »