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2008年10月18日 (土)

今年最後の・・・

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「かかえてごらん」

「ばらをかかえると、どんなときでも、楽しくなるよ」

大島弓子のマンガ『いちご物語』の中でオオカミ男こと日向温(ヒュウガ・オン)は言っ

た。大島弓子フリークの私は日向音が大好きで、男の子だった最初のこどもの名前

を『音』とつけようと思ったのだけれど、「オン!なんて、そんな犬の鳴き声みたいな

名前つけられるか」という相方の言葉で一蹴されたのだった。後になってそれを聞い

た息子は「あー、よかった。そんな変な名前にされなくて」と言った。ならば次の女の

子は『いちご』に、と思ったけれど、やっぱりそれも却下された。娘は同様に「リサい

ちご、なんて名前にされなくてよかったよ」と言う。ちぇ。かわいいと思うのになぁ。

でも問題はそんなことじゃない。

久しぶりに会うその人に、何を持って行こうかと考えていた。

お酒じゃ渡りに船(酒飲みなのだ)だし、お菓子じゃつまんないし、花? 

でもバラでもユリでもない。

しばし考えた後、何かしながら別のことを考えていた時に、空から唐突に『コスモス』

という言葉が降りてきた。そうだ、コスモスだ。あの人に似合うのは!

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さっそく、いつも行く花屋に行って店内を見回したけれど、コスモスは鉢花以外置いて

ない。「もう切花のコスモスは入りませんか?」と訊くと、お花屋さんの彼は「どうでしょ

う・・・」と考えてから、「まだ今週ならあるかもしれません」と言った。

そ:「まだ、ってことは、もう終わりってこと?」

花屋:「ええ。もう原生のはそろそろ終わりです」

そ:「入るかな? ・・・ 持って行きたいところがあるんです。必要なのはこの日です」

花屋:「やってみましょう。この日に必要だとすると明日じゃないと間に合わないから、

      あれば明日入ってます。どれくらい必要ですか?」

そ:「ふわっと、抱えられるくらい」

花屋:「色はピンクですか?」

そ:「白と淡いピンクと濃いピンクで、普通に原生してるみたいな感じで ・・・」

花屋:「わかりました」

そんな会話をしてその日は、それじゃ、よろしくと帰って、次の日店先で入りましたと

言われた。それを今日の午後、出がけにもらいに行った。

私の顔を見てお花屋さんが奥から出してきたのは、長いバケツいっぱいの、私の思

い描いたとおりのコスモスだった。「きれいです」と私が言うと、「コスモス、いいですよ

ね。花を知る前はこの花の良さがわからなかったけど、知ってからは好きになりまし

た。たぶんこれがウチに入る今年最後のコスモスです」とお花屋さんが言った。

カウンターに載せられた大量のコスモスからは独特の草のような香りがした。

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それをふわっと抱えられるくらいの大きな花束にしてもらって、『できるだけナチュラル

に』ラッピングしてもらって、できあがった花束を抱えて午後の町を歩いた。今日の陽

射しは動くとちょっと暑いくらいで、コスモスを包んだセロファンが陽の光にきらきら光

って、私は上気しながら久しぶりにわくわくした気分になった。

ときどきすれ違う人が振り向いた。

駅のホームで電車を待っているとき、年配の女性が「まあ、きれい!」と声を掛けてき

た。「コスモスが好きな方にさしあげるんですか?」と彼女は言ってから、「それとも、

あなたが好きなの?」と訊いた。「ええ、大好きなんです。コスモス」と私は言った。

病院の精神科で看護婦として働いているというその女性は、自分の庭に咲いている

コスモスを昨日病院に持って行ったばかりなのだそうだ。「コスモスって優しい花です

よね」と彼女は言った。「ええ」(にっこり)

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銀座のギャラリーはビルの最上階のペントハウスにあって、デッキテラスでは賑やか

にお茶をする女性達がいて、上からは聞き覚えのある快活な声がした。近寄ってき

た女性は髪をストレートにして短く切った私を見ても誰だかわからなかったみたいだ

けれど、私はわかった。Sさんのかつてのテニス仲間。私がにっこり笑いながら「こん

にちは」と言うと、彼女の顔の上で疑問符がゆるゆる解けて「きれいなお花を抱えた

素敵な女の子が入ってきたから、まぁ、ちょっと誰なの、と思ったらあなただったの」

と言った。ワタシハオンナノコ デハ アリマセン ・・・・・・。続いてSさん登場。

花束を渡すと彼は「ありがとう」と言って「ちょうどいい。さっそくこれに活けてもらおう」

と、ゲストブックの脇に置いてあった自分の焼いた大きな空っぽの花器を持ち上げた。

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花はさっきの彼女が活けてくれた。「ここへ座って珈琲でもどうぞ」

実を言うと私はひとりで静かに絵を見たらさっと帰ってくるつもりだったのだけれど、

そんなわけでテラスで気持ちのいい風を受けながら、しばらく女性達のお喋りにつきあ

った。年齢の話とか日焼けの話とか病気の話とか、どこででも出るそんな女性特有の

退屈でどうでもいい話 ・・・。ひとり席を立って絵の前に立った。Sさんは数年前の個展

の時とくらべるとだいぶ画風が変わったみたいだ。この風景画の町並みはスペイン?

そんなことを思っていたら病気の話をしていた女性がいつのまにか隣りにきていた。

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帰り際、Sさんが「絵はちゃんと見たの?」と私に訊いた。「うん。見ました!」と答えた

けれど、ごめんなさい。ほんとはちゃんと見られなかったかも。私は始終話しかけてく

る女性が横にいては集中できないんです。たぶん、またきっと会期中に来ることにな

るんだろうな。前の個展のときもそうでしたもんね。

絵よりも女性のお喋りばかりが頭に残って物足りない気分のまま自分の駅に着いた。

今日は日が暮れてからも暖かかったけれど、スーパーに寄って出てきたらどしゃ降り

になっていた。ビニール傘を買って家路をたどりながら、ふいに踵を返して再び花屋に

行った。お花屋さんに今日のお礼を言って、私のためだけに仕入れて、まだちょっと

だけ残っていたコスモスをもらうことにした。せめて同じ花の時間を共有するために。

花はすぐに萎れてしまう。でもそこがいいと思う。

今年最後のコスモス。

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