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2008年8月 7日 (木)

アルカディア

08himawari

長い触覚をもった名も知らぬ虫が

卓の上で行手をまさぐっている

今を生きる小さな喜びの前で

あらゆる思い出は退屈だ


風が木々の梢を渡ってゆくー

そんな決まり文句でしか

とらえられぬ一瞬があって

その時を愛していけない道理はない


しなやかな発条のように季節は

らせん状に時を進める

子どもたちの背丈が伸びたのを

喜ばぬ親がいるだろうか


それと知らずに愛する人々は

どこか遠くをみつめている

おそらくは到ることのできない

他の星の上の土くれか何かを


長い曲がりくねった道を歩みながら

みちばたの草の葉に手を触れる

幸福な結末というものはないのに

誰もが一度はお伽話を信じた


私たちはみな永遠の胸をまさぐる子ども

雲のむこうで稲妻がひらめき

はるかな雷鳴が夕立のくるのを告げる

天地創造のその時のまま


(谷川俊太郎/詩集『手紙』より、『アルカディア』)

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暦の上では今日、立秋。

けれど、久しぶりに朝から快晴になった今日は、この夏一番の暑さだ

った。日盛りに太陽の下にいると、焼けるというよりもう焦げるという

感じ。ふだんあまり汗をかかない自分とは思えないほど、汗が雫にな

って滴った。それでも昨日までの耐えられない蒸し暑さとは違って湿

度はだいぶ下り、カラリとした感じ。木陰にいると驚くほど涼しい風が

吹き抜け、この夏もクーラー無しですごす友人たちの気持ちが少しわ

かった瞬間。夏の数十日の中でも、こんなに美しい夏の日は滅多に

ない。ヒマワリは太陽の下で存分に輝き、私の傍らにはデリケートな

眼差しをした16歳の少女がいて。その日に焼けた細いふくらはぎが

大きな緑の葉っぱの陰に隠れるのを見ている。

アルカディアとは古代ギリシャの理想郷のことだそうだ。

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