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2008年7月23日 (水)

健気なバラ

08lilac_rose_02

朝、目がさめた瞬間に右の瞼の下が重く、痛みがあって、これはきっ

とものもらいだと思ってすぐに鏡で見てみたけれど、はっきりしない。

「見た目にどうかなってる?」と家族に訊いてみるが全くのノー・リア

クションで、子どもたちの朝の無愛想さったらひどいものだけれど、

暑かろうが寒かろうが疲れていようが睡眠不足だろうが、常に毎日

コンスタントに機嫌よく家事をやっている主婦としては、いいかげん

にしてくれ、と思う。今日はそれから息子の不機嫌以上の不愉快な

ことがあって、いっそ今日は家を出てしまおうかと思ったけれど、思

いとどまってベランダに出た。すでに暑くなりかけたベランダではライ

ラック・ローズが1輪だけ咲いていた。そして私のベランダがもしバラ

だらけじゃなかったら、ずいぶんと殺風景で心癒されることもないだろ

うと思った。

先日の夜中、めずらしくMちゃんから電話がきた。Mは会社の経営

者で365日いつも忙しい人だから、こっちから電話をかけることはほ

とんど無い。1年に何度か、Mのほうから気まぐれに電話がきて、さ

んざん長電話した後に久しぶりに会おうか、ということになる。それで

この日を逃したら年内には会えない!と彼女が指定する日に、私が

彼女の家まで出かけて行くのだ。Mが電話をしてくるのは、たいてい

新たな恋(というかラブ・アフェア)について誰かに話したくてしょうが

ないときか、多忙な日常の張り詰めた糸が切れて、ふわっと気が抜

けた瞬間なんかが多い。そして久しぶりに電話をかけてきた女友達

はきまって私にこう訊く。「それで最近、浮いた話は?」

最近の私は彼女らの期待に反して、いともあっさり「無い」と答える。

多少、近況を話した後、いまは音楽とバラで充分なのだ、それで退

屈することもなく、恋愛をしていたときに較べてさえ今の方がずっと

すっきり健康的に暮らしてる、と言うと彼女達は「ふぅ~ん」と言う。

朝おきて顔を洗って歯を磨くようにいつも恋をしていたい、というM

からしたら最近の私なんか仙人みたいなものかもしれないけれど、

いい恋愛じゃなければそんなの何度したところでただ自分の人生に

業を積んでいるだけ、と悟ってしまった私からすれば、Mのしている

ことはただの空しい気晴らしに思える。それは私にとっては愛でも恋

でもなく、深情にしか見えない。業か徳か、どちらを積んでいるかなん

て、難しく考えなくたってその人の顔を見れば書いてある。良くない恋

は人の顔を少し不幸せにするから。Shadow of your smile じゃないけ

れど、私は彼女の微笑みの影を知ってる。

Mとの会話はいつだって楽しいけれど、最近は彼女と話すたびにいつ

も、私たちの価値観や感覚が激しくずれてしまったことを感じる。そして

過ぎてしまった時間について、考えずにはいられない。今じゃティーン・

エイジャーだったあの頃の私たちが想像もしなかった未来をお互い生

きていて。

結局この夜の電話は2時間半も続き、私はつくづくげんなりしたけれど、

Mはこの日、私が何気なく言った「愛情を浴びるようにして暮らしたい」

という言葉が妙に響いたようだった。なぜならそれは自分が望むことそ

のままだから、と。

「バラと言えば」とMが言った。

「今年もそうちゃんのバラいっぱい咲いたんだよ」

古い一軒家からアパートに引っ越すとき、増えてしまったバラをどうし

ても減らす必要があって、Mにもクルマで来てもらって持って行っても

らった。大株のオールド・ブラッシュ。椰子の木も枯らすMだから、最

初から枯れてもしょうがないと思っていたけれど、あれからもう10年

以上経って、一度も植え替えもしなければ肥料もあげていないのに

毎年、律儀に咲くという。

「花を数えたら100以上もあって、それでそうちゃんに電話しなきゃ、

しなきゃと思ってたんだ」

バラが咲いて私を思い出す、なんていうのは美しい話だけれど、そう

いえば去年、家に遊びに行ったときにもMはそんなことを言っていて

「白いバラがいっぱい咲いた」というので「白?!これってピンクのバ

ラだよ!なんたってオールド・ブラッシュっていうくらいなんだから!」

なんて会話をしたのだった。どうやら肥料切れをしているうちにピンク

のバラが白くなってしまったらしい。それで100以上も花をつけるな

んて、なんて健気な・・・・・

これだから、ともすると私は人よりバラのほうがよかったりするのだ。

大暑を過ぎた今日も暑かった。

瞼が見るからに腫れてきたので今日、何年ぶりかで眼科を訪ねたが

あいにく休診日だった。私は医者嫌いだけど例外的にここの眼科医

は好きで、遠視の眼鏡をかけた老医師はとても静かに話し、しんとし

た診察室は心地よい。待合室には音楽はかかっていなくて、向かい

合わせに置かれたソファの向こうにはガラス越しに庭の緑が輝き、私

はここに座っているといつも詩のフレーズが浮かんできて、もうちょっ

と私をここにいさせてくれないかな、と思う。でも彼ももはや高齢なの

だ。いつまで診察できるかわからない。

仕方なく今日は薬局でサルファ剤入りの目薬と、気休めにとっても安

いビタミンCとBのサプリメントを買って帰った。

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La vie en rose 」カテゴリの記事

コメント

そうきちさん、前にも目に来てたことあったよね。疲れてるんだね。私はやっと元気になってきたカナ。お大事にhospital

投稿: angelseed | 2008年7月24日 (木) 21:17

酷暑、お見舞い申し上げます。
元気なバラ、眺めていても気持ちがいいです。
色鮮やかに輝く夏バラは、たくましくもあり気持ちを
預けられそうでほっとしま~す。
今年はバラの樹の木蔭がいくつもできるようになり
時折、通り抜ける涼しい風が何よりのご馳走。
目の炎症は、気持ちまで鬱っとおしいよね。
早く良くなって、この暑い夏を満喫して・・・・・・。


投稿: みちこ | 2008年7月25日 (金) 09:45

angelさま、
そうだっけ?
あなたさまにそう言われて考えてみたんだけど、昨日眼科に行ったらショックなことに私の好きな老先生はもう3年前に亡くなっていて、息子さんが後を継いでいたのだけれど、とすると私は少なくとも3年以上眼科医の門を叩いてないことになるし、記憶する限りでは最後に行ったのは娘のファースト眼鏡を作るためだったと思うんだ。
つまり5年位前かな。
まぁ、眼精疲労なんてのは、いつものことなんですが・・・
angelさんはやっと元気になってきたの?
それはよかった!
子どもたちの長い夏休み、今年は受験生を抱えて(だよね?)大変だけど、イライラしないで楽しく過ごせるといいね!

投稿: soukichi | 2008年7月25日 (金) 12:03

みちこさま、
どうもありがとう。お久しぶりです。
京都はもうお祭りが終ってしまったんですね。
みちこさんのブログで後から知りました。
年々、素晴らしくなるみちこさんの庭を、いつになったら実物を拝める日がくるかなぁ~と思いながら眺めております。
ハイ。わたくし、ものもらいになってから少し落ちておりました。
病気ってなんでもそうですけれど、元気になってくる瞬間があって、昨日それを感じてもうだいじょうぶだろうって思いましたが。
ただし目はまだすごく腫れております。
右の下瞼だからまだいいけど、これが上瞼だったら完全にお岩さんだろうと笑っております。
遊園地のお化け屋敷にバイトにでも行きますか?
って感じです。トホホ・・・weep
みちこさんも暑いさなか、あんまり張り切りすぎないようにね~!

投稿: soukichi | 2008年7月25日 (金) 12:08

その後、目の具合はどうですか?
この暑さではねぇ、身体もガタピシと来るよね。
最近は休みを目一杯利用するなんて事は止めました。
何もせずにグーダラ過ごす。
こんな休みの取り方って良いかもって、思い始めたのよ。
昔はね~そんな事したらおやじになっちゃうって
思ったけれど、今じゃおやじより自分の方がおばばだ!

投稿: hanta | 2008年7月26日 (土) 10:45

ハンタさん、
お気遣いありがとう!
目は昨日あたりから良くなってきました。
もうだいじょうぶです。
医者からもらった目薬は、言われただけ使ってぶり返したり左に移ったりしないように気をつけようと思います。
もうヤダもんね、真夏にこんなのgawk

ほんとにハンタさんの言うとおりです。
なぜ自分がこんなに疲労してしまったのか考えたら、2週続けて土曜のスイミングの後に出かけてほぼ終電帰りだったんです。
それが効いたみたい。
年々、体力が落ちてきて嫌になっちゃうけど、まぁ仕方ないね。
私の場合はもちっと鍛えないと、とまた思うわけですが・・・coldsweats01

投稿: soukichi | 2008年7月26日 (土) 11:40

はじめまして。

ほんとに薔薇は健気だと思いますよ。
暑かろうが寒かろうが、時期がくれば美しい花で楽しませてくれます。

と思いながら、私はずいぶんと薔薇を泣かせてきました(苦笑)

いま音楽のほうにかなりシフトしてますが、
薔薇のほうはなにしろ年季がいってるので。

これから、通わせていただき楽しい記事を読ませていただきます。

投稿: 四季歩 | 2008年9月14日 (日) 22:06

四季歩さん、はじめまして(^-^)
過去記事にコメントありがとうございます。
みんな古い記事にはコメントくれないけれど、過去記事にコメントがつくと嬉しく思います。それだけちゃんと読んでくださってる方がいたと思って。
バラで検索してここへ?

私もバラとのつきあいはもう長くなって、よほどのことがない限り、するべきことをすればちゃんと咲いてくれることがわかっているので、最近あまり力は入ってません。
(あ、でもこの秋は新しいフレンチさんがやってきます!)
バラも音楽も、一過性のブームや表面的じゃなくちゃんとつきあうと、自分の心の金脈にたどり着けると思いませんか?
最近つくづくそれを感じちゃって、もうそれだけで至福の境地です。
音楽は最大の快楽ですね、今の私にとって。

これからもどうぞ、よろしくconfident

投稿: soukichi | 2008年9月15日 (月) 12:58

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