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2008年4月23日 (水)

符号

Nakazawa_shinichi_3

久しぶりの表参道。

スパイラルビルの入り口で待ち合わせた彼女は、臨月のお腹をいた

わる様にして立っていた。横のCDショップで一瞬だけ『J.A.M』(爆裂

ジャズと呼ばれるSOIL&“PIMP”SESSIONSから派生したピアノ・トリ

オ)の試聴をさせてもらってから外に出ると、彼女は何かに感心した

ような顔で「表参道ってところは女性の気がすごく強いところですね」

と、おっとりした口調で言った。面白いな、と私は思った。

「感じるの?」と訊くと「はい。感じます」と言う。

「そりゃ、すごい」、にっこりして私はカフェ・レジュのドアを開いた。

彼女に会うのはこれで3度目だ。

しかも前は2度とも彼女の会社のセミナールームで、お互いにビジネ

ス・スーツを着ていて、そのときは彼女はごく普通の感じのいいキャリ

ア・ガールに見えた。けれど席に着いてあらためて彼女と向き合うと

その印象は前とはまるで違うものだった。さっきの彼女の言葉を確認

するようにして訊いてみると、子供時代の彼女は完璧なインディゴ・チ

ルドレンだった。ふつう、人には見えないものが見え、聴こえないもの

が聴こえるという、まさに『シックスセンス』の世界。

大人が話しているのを聞いていると、実際に話しているのと同時に

腹で思っている本心の声が聞こえて、子供ながらにその違いに戸惑

ったという。いちど父親が話しているときにうっかりその本心の声の

ほうに応じてしまって、父親からは「お前はおかしい」と言ってひどく

気味悪がられた。以来、自分にだけ見えたり聞こえたりしているもの

のことについては誰にも言わないようにしていたけれど、毎夜のよう

に自分の部屋に会いにくる霊がいて、さすがにそれが続いたときは

怖くなって母親にだけ打ち明けた。でも母親にも「気持ちの悪いこと

を言うんじゃない」と言われただけで、結局はわかってもらえなかった

のだそうだ。そんなわけで、子供時代の彼女はずいぶん苦労したらし

い。そういう体験を本人の口から聞くのは初めてじゃなかったから、

私はそれほど驚きはしなかったけれど、世の中にはほんとにそんな

人がいるんだな、と思った。

「今でもその能力はあるの?」と私は訊いた。

「いえ。使わないようにしているうちに、だんだん無くなりました」

「でも全部なくなったわけじゃない」

「そうですね」

大人になった彼女はアメリカ式の脳力開発と成功法則の会社に勤め

ながら、スピリチュアル系の能力や資格を身につけた。そして数ヶ月

前までは私が受けた印象どおり、バリバリのキャリア・ガールとして

働いていたのだ。それが変わったのが去年の秋だった。去年の秋頃

私は仕事のパートナーに「最近アタマが重い重いと思ってたら、今月

から地球の波動が変わったらしいね」「ああ、それ僕も聞いたよ」「誰

から?」「天理教の上の人から」「???」なんて会話をしていたのだ

けれど、ちょうどその頃だ。彼女はその変化を頭じゃなくてダイレクト

に身体に受けてしまったのだという。それで、それまで夫から散々言

われても変えることのなかった仕事中心のハードなライフスタイルを

変えざるを得なくなった。つまり切迫流産の危機を機に会社を辞職し

たのだ。そうなってやっと、自分が精神的にももうギリギリのところで

仕事をしていたことに気づいたのだという。そして彼女は旧い友人か

ら見ても、見た目からして変わってしまった。前よりもっと自然で、穏

やかに。

私はその日私が抱いていたもうひとつの疑問を投げた。

「なぜ、仕事でたった2回会っただけの私に連絡をくれたんだろう?」

特に意味はなかったんです、と彼女は言った。「会社を辞めるときに

机を整理していたら名刺が出てきて、それで結婚通知の葉書を出し

た。そして、このあいだメールアドレス変更のメールをいただいた」

でもそのあと彼女といろいろ話すうちにその理由ははっきりした。私

たちは共に同じ問いを自分に(というか天に、だろうか)、繰り返して

きたのだった。それゆえの成功法則で能力開発で、出会いだったの

だろうと思う。後からきた彼女のメールの中にも『縁とタイミングを感

じる出会いだった』とあったように、その日の会話だけでもたくさんの

符号があった。「英雄色を好むと言いますか」と彼女は言った。彼女

のボスは女好きで、新しい彼女ができて前の恋人をひどい捨て方で

捨てた後、原因不明の左半身麻痺になってしまったのだそうだ。今

まで私は、詫び寂び、もののあわれや儚さをベースに、必要以上に

欲しがることを美徳としない日本人のメンタリティーには、エゴを最大

限に拡大することで自己の目標を達成しようとするアメリカ式成功法

則は全然合わないと思ってきたけれど、そういうものを散々学んでき

た人の口から『霊障』なんて言葉が出てきたときには、面白いを超え

て、なんというか感慨深かった。単純に、他人にひどいことをすれば

自分に返ってくるのだ。それが波動の法則だ。ここでも何度か書い

ているけれど、男どもよ、女心を侮るなかれ!!

様々なことを話してあっという間に数時間が過ぎ、もう夕方、混み始

めた銀座線に乗ってバッグの中にあった本(『幸福の無数の断片』)

を無造作に開くと、なんと開いたページは『仏教の思想 下』だった。

これがとても面白かった。中沢新一の梅原猛論。昔、好んで使った

『デモーニッシュ』という言葉をここで久しぶりに見つけた。中沢新一

は昔から好きだ。何かを考えながら本を読みたい人にはぴったりだ

と思う。私はわずか数ページのこの文章で、梅原猛という人にとても

興味を持った。ここにあった気に入った一文。

”結局のところ、この本で、梅原猛が問いただしたかったのは、日本

人が世界的であることの条件は何か、ということであったのだ、と私

は思う。世界的であるとは、思想が生まれ、はぐくまれた、地方性や

民族性の底に深く根をおろしながら、世界にむかって伸びあがり、

世界に何か新しい「よきこと」を贈与できることを言う。”

ちなみに、この本の裏の紹介文にはこんな風にある。

『幸福とは何か? それは、いっさいの痕跡を残さないまま、地上か

ら永遠に消え去ってしまうかもしれない人生の可能態。いつもキラキ

ラ飛び散って形にならない、幸福の瞬間を記録し、その断片たちを

出会わせる、知と愛の宝石箱』。

実は今日のこの記事には書きたいことがいろいろ複合的に存在し

ていて、こんなちっちゃい文章には書き切れないのだ。でも出してし

まう。ある日の個人的な記録として。

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