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2007年6月 2日 (土)

6月は

Ajisai_04

私には3つ違いの妹がいる。

妹と私は顔も性格も全然似ていない。

2人でどちらかが知らない相手に会うようなとき、昔から彼女はきまっ

てかならず「私たちってきょうだいなのに全然似てないでしょう」と言

う。私はもうそんなことわざわざ言わなくたっていいのに、と思うけれ

ど、いまでもそうだ。それを言うことが彼女にとってどんな意味がある

のか、それを言うことで彼女の心に何がもたらされるのか、私にはわ

からない。何が違うといって、こんな風に言ってどれだけ人にわかっ

てもらえるかわからないけれど、端的に言って私は日常に詩が必要

な人間で、彼女は詩はわからないと言う。それが全て、私たちの容

貌から人生のあらゆる細部にまで現れているように思う。妹は私より

ずっと現実的でしっかりしていて、そしてまっとうだ。私は彼女みたい

にはとてもやれない。けれど肝心なとき、たとえば母がガンになって

主治医と話さなきゃならないときとか、彼女がカードを悪用されたとき

家族で何か重要なことを決めなきゃならないときには私が出て行くこ

とになる。それは私が長女だからか、私の方が妹より冷静でロジカ

ルだからだろうか。

今日、妹の乳ガンの手術に付き添って病院に行った。

ずっと赤坂の会社で働き続けてきた妹は、インディペンデントで私以

上にさばさばしたところがあって、今回のことはぜんぶ自分で調べて

ぜんぶ自分で決めた。その彼女からだいたいのことは聞いていたの

だけれど、それが本当に外来で行って2時間もかからずに終って入

院もせずに帰って来られることに驚いた。もちろん、それだけ初期で

軽い手術なのだということなのだけれど、それにしたって。

予約した時間より40分待たされ、医者のきわめて簡潔な説明を聞

いて手術の始まりとともに冷房の効いた病院から外に出たら、陽射

しの暑さとコンクリートの照り返しで、感光したように頭が白くなった。

いちばんショックで痛い思いをするのは妹なのだから私がへなへな

してられないと思ったけれど、キツくて自分の方が具合が悪くなりそ

うだった。今日は朝から頭が痛くて、駅でミネラルウォーターを買って

アスピリンを1錠飲んだのだった。2時間の時間を潰すのに、白い頭

で新宿のごちゃごちゃした喧騒を通り抜け、あてもないまま伊勢丹新

館に入った。入った途端にもらったフレグランスの滲みた紙を嗅ぎな

がら歩いていたら、急速に疲れた心とからだを癒すための香りが欲

しくなって、その香りをくれたショップに入ってみることにした。それは

天然香料100%のフレグランスで、そこでたいそう親切な店員さんに

勧められるままに、実にたくさんの香りを嗅いだ。香りというのは想像

以上に脳に直結するもので、シトラス系の香りを嗅いだら曇った頭が

はっきりし、サンダルウッドの香りを嗅いだら軽く汗ばむほど体温が

上がるのがわかった。少し気力が戻ってきた気がしていっそその高

いトワレを買ってしまおうかと思ったけれど、カタログだけもらって出

た。それから食べられないと思っていたお昼ご飯をしっかり食べた。

手術が終ったら受付の人が私の携帯に電話をしてくれることになっ

ていたのだけれどまだこなかったので、ショーウィンドウのガラス越し

にアンドリュー・ワイルの顔を見て今度は伊勢丹本館に入った。ワイ

ル博士の本はもう17年も前に読んだ。『癒す心・治す力』。ホリステ

ィック医学について書かれたとても良い本だ。

人はなぜ病気になるのだろう? 

人は様々なストレスから交感神経が緊張し続け、それが何週間も何

ヶ月も何年も続くと病気になる。ガンが発症してレントゲンに写るよう

になるまでに約10年。母の闘病生活を支え、母亡き後は家を切り盛

りし、父の面倒を見てきた妹がなぜこんな目にあわなきゃならないん

だろう。でも、どこかに無理があったことは確かなのだと思う。

オリジンズでも天然香料のフレグランスを試して、とても爽やかなオ

レンジの香りのトワレを買ってプレゼント用にラッピングしてもらった。

6月生まれの妹はあさって誕生日なのだ。

天然香料のトワレは1、2時間で香りが飛んでしまうから、それほど

香りが好きじゃない人でも気持ちよくつけていられそうだ。オレンジ

の香りは憂鬱な気分を吹き飛ばし、気持ちを明るくしてくれる効果が

ある。病院から電話がこないままに戻ったら、妹はまだ麻酔からさめ

ていなかった。それから1時間待って麻酔からさめた妹は、自分の服

に着替えて出てきた。パーティションで区切られただけのベッドには

他にも寝ている人がいて、看護婦から声をかけられている。東京で働

く女性達はガンになっても会社に休みもとらずに週末に1人で病院に

来て手術を済ませ、1人で家に帰って月曜には出勤するようなことを

みんなしているのだろうか。医者から呼ばれて2人で取ったものの確

認をし、妹は鎮痛剤をもらって支払いを済ませ、2人で家に帰った。

家には父がいたけれど、今回のことは76の父には知らせていない

のだ。妹が薬を飲んで寝たのを確認して母の仏壇にお線香をあげて

家を出た。ひどく疲れた視線を外に投げると、6月はどこもかしこも紫

陽花だらけ。私は紫陽花は嫌いだ。頭が重すぎるし鬱陶しい雨の季

節にブルーの花は涼しげだけれど、この花はちょっとウェット過ぎる。

私が思う6月の花は、ジューンブライドの白い薔薇。

花嫁がドレスのどこかにブルーを身に付けると、しあわせになれると

いう言い伝え。

雨降って地固まる、災い転じて福となす、の言葉のとおり、この後は

妹の人生全てが好転しますように。ハレルヤ!

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