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2007年5月12日 (土)

モウブのカーテン

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あれは骨董通りにあったビルの2階のオフィスに勤めていた頃。

その日はみんな出払っていてオフィスには私しかいなくて、電話番以

外仕事もなく暇にしていたとき、窓から外を見ていると、通りを挟んで

斜め向かいの見慣れたマンションの窓のひとつが薄く開いていて、モ

ウブのカーテンが風で揺れていた。ただそれだけの景色だったけれ

ど、モウブのカーテンはアンティークなその建物の窓の雰囲気にとて

も似合っていてきれいだった。いったいその部屋にはどんな人が住ん

でいるんだろう。そんなことを考えながらしばらくぼんやり眺めている

と、突然カーテンがふわっと揺れて、女が窓辺に立った。

もう昼過ぎだというのにいま起きたのか、そのひとはスリップに薄い

ガウンをはおっただけ、という姿だった。窓越しに遠目でも、彼女のシ

ャンパン・カラーのスリップの質感と肌の白さは目を引いた。

シャンパン・カラーのスリップと、モウブのカーテン。

まるで花屋でよく似合う花の組み合わせでもみつけたみたいに私が

目を離せずにいると、彼女は鎖骨のあたりまである髪を無造作に揺

らしながら髪を掻きあげ、煙草に火を点けた。彼女の顔が美しい横顔

になり、そして吐き出された煙は通りの大気にゆっくり溶けていった。

アンニュイな6月の午後。私から見えない向こう側の手には、赤いワ

インの入ったグラスでも持っているのだろうか ・・・・・・

そう思ったとき、なぜか彼女はゆっくりとあたりに視線を泳がせ始め

た。そして、空中で一瞬シンクロする2人の視線。

すると彼女は、ふっと笑った。いや、笑ったように見えた。それはまる

で、”見てたわね”という、暗黙の共犯者めいた笑いだった。そして彼

女は後ろ手にカーテンを引くと、窓の向こうに消えてしまった。

後にも先にも彼女の姿を見たのはその1回きりで、それ以来彼女を

見ることはなかった。相変わらずときどき薄く開かれた窓に、モウブ

のカーテンが揺れていることはあったけれど ・・・・・・

実を言うと、彼女の姿を本当に見たのかどうかさえ、いまとなっては

曖昧なのだ。もしかしたらモウブのカーテンにインスパイアされた、

私のただの幻想なのかもしれない。ただ、その短い映像は私の頭に

インプットされ、いまでもモウブというと骨董通りのマンションの窓で

揺れていた、あのカーテンの色を思い出す。

今日、ライラック・ローズのふたつ目の花がきれいに咲いた。

この花には特別なニュアンスがあるような気がする。でも私のデジタ

ルカメラでは、この花の本当の色は出せない。下は株全体の様子。

全体として見ても、なかなか風情のあるバラだと思う。

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コメント

夜中に訪問です。

まるで短編小説を読んでいるような
気分になりました。

ライラック・ローズ
ローズ・カフェで観て一目ぼれした
バラですよね。(記憶が合っていれば・・・)


イソジン  soukichiさんには駄目だったようで・・・
たしかに、病院の匂いがしますね。

投稿: ルイ | 2007年5月13日 (日) 03:04

骨董通り、そんな物語があっても不思議ではない界隈
モウブのカーテンに惑わされて見た幻想、フランス映画のワンシーンみたいね


投稿: tama.3photo | 2007年5月13日 (日) 23:49

今晩は。
また少し気温が下がり、ほっとしています。
一日で咲き終わるバラが、あまりにも可哀想です。
これも夢か、幻か・・・。睡眠不足ではありません。
家のライラックローズ、蕾がだいぶふくらんできたようです。
均整のとれた綺麗なバラですよね。蕾もたくさんあってお互いに、先が楽しみですね。
人も特に女性は、まず顔を見ますよね。美人にこしたことはないですが、思わずはっとするような、振りむきたくなるような人、たまあ~に会います。

投稿: みちこ | 2007年5月14日 (月) 00:12

ルイさま、
夜中? 明け方?
この日はこんな時間までお仕事だったんですか?

ルイさんにそんな風に言ってもらえたなら、私の頭の中の映像も少しはうまく書けたってことかな(^-^)

イソジン、
そう、まるっきり病院の匂いですね。
私、医者と一緒に仕事してますけど、ほんとは医者も病院も大っ嫌いなの。
健康でいるにはなるべく薬を飲まないようにして、医者にかからないですむように予防するのが1番ね!

投稿: soukichi | 2007年5月15日 (火) 00:01

tama さん、
そう、骨董通りはその名前からして雰囲気を感じるところですよね。

フランス映画のワンシーンか・・・
そう言って、1人1人が頭に思い浮かべる映像はそれぞれ違うんだろうなあ。
私が思い浮かべる女は私好みの女ですから。

投稿: soukichi | 2007年5月15日 (火) 00:05

みちこさま、
実はこのつぼみも葉っぱもかなりうどん粉にやられていて、実際に
きれいに咲かせられたのはごくわずかでした。
紫系のバラはやっぱり弱いですね。
来年はもう少し良くなるかな。

思わず振り向きたくなるような美人かあ・・・
そういえば最近、会ってないな。
逆はいくらでもいるんですけどね。
電車の中で臆面もなく化粧をしている女の子とか、携帯でメールを打ちながら袋の中に手を突っ込んでフライドポテトをばくばく食べてる女の子とか。攻撃的な音を響かせながらミュールを履いてアヒルのように階段を降りてくる女の子とか・・・
容姿がきれいかどうか以前の、頭が痛くなる問題ですね。
電車に乗るたびに辟易としてます。

投稿: soukichi | 2007年5月15日 (火) 00:12

いい色だね、ライラック・ローズ(^^)
それにモウヴのカーテンかぁ、映像が目に浮かんできたはいいけど、カーテンの影から現れたオンナはどうしても岩下志麻でした。(笑)

投稿: カルロス | 2007年5月15日 (火) 07:36

カルちゃん、
私のなかのこのひとは、こんな不健康なシチュエイションのなかにあっても全然不健康に見えない、持って生まれた育ちの良さと、生体の健康さを持った女なんだけどなあ。
あなたのイメージはさ、どちらかというとモウブという音の響きからくるというより、藤色、のほうじゃないか? 岩下志麻ってさ。
でも私、あの人の象印のCM好きだったなあ。
可笑しくて。

投稿: soukichi | 2007年5月15日 (火) 23:50

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